2019年02月18日
つわもの
「つわもの」は,
兵,
と当てる。
武具,武器,
の意であり(『岩波古語辞典』『広辞苑第5版』),
それが転じて,
武器をとり戦争に加わる人,兵士,
武士,
の意に転じ(『広辞苑第5版』),
武士,
の意となった(『岩波古語辞典』),と見ることが出来る。武器庫を,
つはものぐら(兵庫),
と呼ぶのはかなり古い。
つはもののつかさ(兵司),
とも言う。律令制下の八省の一つ,
兵部省,
を,
もののふのつかさ,
つわもののつかさ,
と呼ぶ(和名抄には「都波毛乃乃都加佐」)のは,
軍政(国防)を司る行政機関,
であり,武器の意味よりは,軍隊の意に転じていると見ていい。因みに,八省とは,
中務省・式部省・治部省・民部省(左弁官局管掌),
兵部省・刑部省・大蔵省・宮内省(右弁官局管掌),
である。「つわもの」に,
強者,
とあてるのは,後の当て字である。
『大言海』には。「つはもの」を,
「鐔物(つみはもの)の略にて,兵器,特に鐔(つば)あれば云ふとぞ」
とある。字類抄には,
「兵,ツハモノ,兵仗劒戟也,物名也」
とある,とか。「兵仗」は,兵器,「劒戟」はつるぎとほこ,の意。「鐔(つば)」の呼名は,「ツミハ(ツミバ)」といい,
「刀劒の金具。扁(ひらた)くしてアナり,形,方,圓,種々なり。刀心(こみ)を貫きて刅(み)と柄との間に挿(は)めて,縁,四方へ余り出ヅ。握る手の防ぎとするなり」
とあるので,まさに「鍔」である。
『日本語源広辞典』は,
「ツワ(固い・強い)+者」
で,強い兵士の意とするが,
強者,
と当てた後の「強者」からの解釈に思える。『日本語源大辞典』の,
「古くは兵よりも武器そのものをさす…場合が多かった。兵をさす場合は,類義語『もののふ』が『もののけ』に通う霊的な存在感を持つのに対して,物的な力としての兵を意味していたらしい」
というように,「力」としての「つわもの」が始源であったとみていい。その意味で,
ツハモノ(器物)の略(日本釈名・草蘆漫筆・和訓考・語簏・ことばの事典=日置昌一),
ツミハモノ(鐔物)の略(古事記伝・俗語考・大言海),
ツはト(鋭)の転,ハモノは刃物の義(日本古語大辞典=松岡静雄),
打刃物の義(雅言考),
と,武器系の語源説に軍配だろう。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
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