2019年03月10日
ゆるがせ
「ゆるがせ」は,
忽せ,
と当てる。
心をゆるめるさま,
おろそかにするさま,
いいかげんなこと,
なおざり,
といった意で,
ゆるがせにしない,
と否定形で使うことが多い。室町末期の『日葡辞典』に,
一字一句ユルカセにしない,
と載る。
室町時代まで清音,
で,
イルカセの轉,
とある(『広辞苑第5版』)。
「忽」(漢音コツ,呉音コチ)の字は,
「会意兼形声。勿(ブツ)は,吹き流しがゆらゆらしてはっきり見えないさまを描いた象形文字。忽は『心+音符勿』で,心がそこに存在せず,はっきりしないまま見過ごしていること」
とある。で,
たちまち,
いつのまにか,
うっかりしているまに,
という意味である。
「ゆるがせ」は,
イルカセの轉,
で,「いるかせ」が,室町時代まで,
ユルカセ,
で,その後,江戸時代以降,
ユルガセ,
となって(『岩波古語辞典』),
イルカセ(室町時代まで)→ユルカセ→ユルガセ(江戸時代以降),
という転訛してきた。「いるかせ」は,
なおざり,
おろそか,
の意である。
「忽,軽,イルカセ」
とある(名義抄)。『大言海』は,
「縦(ユル)す意」
とし,「忽諸(イルガセ)」の項で,
「緩めて,厳(おごそか)ならすと云ふ,俗に,ユルガセニとも云ふ,諸は助字なり」
とするし,『日本語源広辞典』も,「イルカセ」の轉の他に,
「緩い枷」
とするが,上記の,
イルカセ(室町時代まで)→ユルカセ→ユルガセ(江戸時代以降),
の転訛から見て,
「『いるかせ』が『ゆるかせ』に転じるのは,古辞書や『平家物語』の諸本などから,室町期に入ってからと考えられる。語源を『ゆる(緩)』と関係づけることには問題がある」
のである(『日本語源大辞典』)。では「いるかせ」は,何処から来たのか。しかし,
緒のカセのゆるむことからいったか(カタ言),
緩きにすぎて怠る意(国語の語根とその分類=大島正健),
ユルカセ(緩為)の義(言元梯),
と「緩む」意から抜け出せていない。「いるかせ」の謂れは分からなくなっている。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
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