2019年03月18日

むぎ


「むぎ」は,

麦(麥),

と当てる。和名抄(和名類聚抄)に,

「麥,牟岐,今按,大小麥之㵤總名也。大麥。布土無岐,小麥,古牟岐」

とあり,本草和名に,

「大麥,布止牟岐,小麥,古牟岐」

とあり,名義抄に,

「麥,ムギ,大麥,フトムギ,小麥,コムギ,マムギ」

とある。「麦(麥)」は,

「コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバクなどの、外見の類似したイネ科穀物の総称」

である(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A0%E3%82%AE)。

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「『古事記』に保食神(けもちのかみ)の陰(ほと)に麦が生(な)ったとあるが,米を表とすれば麦は裏といった考えであろう。異名は,コゾクサ(去年草),トシコエグサ(年越草),トシコシグサ,また,チャセングサ(茶筅草)という。大麦をカチカタ(搗難)またはフトムギというが,小麦に対してのことばである。コムギの古名はマムギである。」

とある(『たべもの語源辞典』)。

「麦(麥)」(漢音バク,呉音ミャク)の字は,

「会意兼形声。來(=来)は,穂が左右に出たむぎを描いた象形文字。麥はそれに夂(足)をそえたもの。遠くから歩いてもたらされたむぎをあらわす。がんらい來が『むぎ』,麥が『くる,もたらす』の意をあらわしたが,いつしか逆になった。賚(ライ もたらす→たまわる)と同系で,神が遠く西方からもたらした収量ゆたかな穀物のこと。來(ライ)と麥(バク)は,上古音では同じであった」

とある(『漢字源』)。「麥」の字は,、紀元前 1500 年の殷の時代甲骨文字からうまれたとされ,古い。

「殷の時代では『來』、周の時代には『牟』となり、その後、來(むぎ)と夊(くる)が合体して『麥』」

になったらしい(https://www.pref.ehime.jp/h35118/1707/siteas/11_chishiki/documents/11_mugi_2.pdf)。さらに,

「紀元前 1050 年から始まる周の時代に原始的な漢字『金文』が成立し、その周王朝の初代王には『我に來牟(らいぼう)を胎る』とする伝承が残されています。牟(ぼう)とは、芒(のぎ)、すなわち麦穂にみられる細長いヒゲのことをさし、麦を表わします。來(らい)とは、殷の時代には麦を表しますが、周の時代には「来(くる)」に転じます。」(仝上)

「來牟(らいぼう)」とは西方から良い麦の種子がやって来たことを表わすのだ,という。

この「麦」は,

バク・ミャク・マク・ムク・マイ,

等々と訓ませるのは,

「有史以前に中国から朝鮮半島を経て渡来したもので,ムギという名称も,中国語・朝鮮語などの影響を考えねばなるまい」

とする(仝上)。で,

「朝鮮語mil(麦)と同源か」(『岩波古語辞典』)

「漢音のカツ(葛)をクツ・クヅ・クズといい,同じくバク(麦)をマク・ムク・ムギという」(『日本語の語源』)

という由来説もある。

「ムギの字音は,英語・デンマーク語・アイヌ語・蒙古語・満州語などの麦の名称ににている」

ともある(仝上)ので,由来は,中国以西にたどれるのかもしれない。だから麦の語源を,

「モキ(衣着)の義とか,実木だとか,ムレゲ(群毛)の義とか,ムラゲ(叢毛実)の義とか,ムは高いの意の古語で,キは芒の義とかいう。その他,冬雪中に萌え出すところから,モエキ(萌草)の約,またムレノギ(群芒)の略とか,ムクカチの略とか,また,秋になると我先に蒔くところから,マクカチ(蒔勝)の略とか,ムキノギの略とか,聚芒(むのき)だとか,他の穀類にくらべて幾度も皮をつき剥ぐところからムキ(剥)の意であるとかのしょせつがある。」

とはしつつ,何れにも否定的である。『大言海』も,

「他の穀は,一度,穀を去れば可(よ)きに,麥は幾度も皮を搗き剥ぐ,故に剝(ムキ)の意,大麥に搗難(カチカタ)の名もあり,或は云ふ,萌草(モエキ)の約,三冬雪中に萌ゆれば云ふ,或は,羣芒(むれのぎ)の略と云ふ,いかがか」

と少し否定的である。『日本語源大辞典』には,上記列挙の諸説が載るが,やはり語呂合わせに見える。

そして,上記を否定した後に,『たべもの語源辞典』は,

「麦は中国語ではマイとよむ。奈良では麦をウラケという。稲のことをホンケとよぶから麦がウラケになったのであろう」

と付け加える。これは,

「バク(麦)をマク・ムク・ムギという」(『日本語の語源』)

とする中国由来説とつながる。『日本語源広辞典』は,

中国古代音melog-meg,

を有力とする。その『日本語源広辞典』が指摘する通り,

「大陸からの外来種なのでこれが語源と考えるのは合理的です。」

ということだろう。これだと,『岩波古語辞典』の,

朝鮮語mil,

由来とする説ともつながる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
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