2019年03月27日

さかい


「大阪で生まれた女やさかい」という歌詞があったが,その「さかい」である。

さかひ,

とも書く。

さけ,
しゃけ,

ともいったりする(『広辞苑第5版』)らしい。

「上方で,サカイニ・サカイデのニ・デを省いて用いるもの」

とあり(『岩波古語辞典』),

~ので,~から(「本になさるとおっしゃるさかい,随分吟味致しました」(咄・枝珊瑚集)),

の意味である。

「畿内近国の助詞にサカイと云ふ詞有り。関東にて,カラと云ふ詞にあたる也」

ともある(物類称呼)。で,「さかいで」と使うと,

~ので,~から(「今まで宮崎殿に逢ひましたサカイ,(アナタニ遭ウコトガ)なりませなんだ」(評判・難波鉦)),

という意味で,「さかいに」と使うと,

「サカヒ(境)ニの意」

で,

時に,場合に(「習ふまいさかい」(ロドリゲス大文典)),
(理由をあらわす)~ので,~から(「さしのぶる事を得いで仕ったさかい,あまり気にかかりませらせぬ」(コリヤード懺悔録),
「その事をさうしたさかいと云ふべきを,さかいでと云ふは如何」(俳・かたこと)),

という意味で使うとある(仝上)。この区別の語感は,文脈依存なので,よく分からないが,しかし,

「『堺(境)』からしょうじたのか。上方語」

として,

「物事の理由・原因を表す語。によって,ので,から」

と括ってしまう(『広辞苑第5版』)と,上記の差異が消えてしまわないか,と思うが,

「室町時代、名詞『さかい(境)』から転じたという。『さかいで』『さかいに』(『で』『に』ともに格助詞)の形でも使われる。近世、上方語として用いられ、現在では主に関西地方で用いられる。」

という(『デジタル大辞泉』)のが大勢のようである。『大言海』も,
「境の義にて,書状文に,何何に候間(アヒダ)と用ゐると同じかるべし」

とする。「語源に関しては、名詞「境」から転じたものという。」として,

「そしてまた上方の『さかい』とはなんだへ」「『さかい』とはナ、物の境目じゃ。ハ。物の限る所が境じゃによって、さうじゃさかいに、斯(かう)した境(サカイ)と云のじゃはいな』」(『滑・浮世風呂‐二』)

の例は近世の語源意識をうかがわせる(『精選版 日本国語大辞典』),とする。

物事の切れ目,

が,

その流れで,という経緯で,

と,その理由にも,言い訳にもなるし,

その境目,

が,時間的にも,場所的にも,使われる,ということか。とすると,事態は,

境,

のメタファとして接続詞化したということになる。

「境(さかひ)と言う単語は、『境界』そのものを意味する単語でしたが、やがて、『境界で区切られた領域』を意味するようにもなりました。そして、更に抽象度が高まり、『境遇』『境地』という意味へ発展しました。この結果、『…さかいで』『…さかいに』などの語が『・・・と言う境遇につき』と言う意味で用いられるようになったようです。これが理由を示す接続助詞『さかい』の発生と見られています。」

との説明(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10156745325)もある。

「『けに』の誤れる回帰である『かいに』に、『し』と同系語の『さ』がついて生まれた。『よって』と同様。雨降るさかいきょうはやめとき、あした行くさかいな、せやさかいに、など後に続く言葉を省略することも可能。理由、説明、念押し、言い訳、納得、などの意味が含まれる。古くは『さかいで』とも言った。京都では『さけ』と訛るが、大阪では『はかい』『さかえ』『はかえ』と訛る。南大和で『すかい』、播磨や紀北、近江などで『さけー』、紀伊で『さか』、但馬で『しけー』、北陸や北西奥羽で『さけー』『はけー』、越後で『すけー』が話され、和泉や大和で『よって』、越中呉東で『さからいに』、『から』は関東や南東奥羽、甲斐、伊豆の言葉で、日向で『かり』『かい』、北近畿や伊勢、東海、東山、南九州などでは『で』、信濃で『で』『に』、中国、四国、北九州では『けん』『けー』『きに』『きー』など『けに』系が使われる。奄美、宮古で『ば』、沖縄で『くとぅ』『く』、八重山で『きい』『ば』『ふいりゃあ』など。上方では東京との交流が西日本の他の地域と比べて多かったため、若者だけでなく年輩層でも『から』を使う割合が高くなっている。」

とある(https://www.weblio.jp/content/%E3%81%95%E3%81%8B%E3%81%84%E3%81%AB)が,『日本語の語源』は,

「カラニ(故に)は『ゆえに。ために』という意味の接続助詞である。〈などかは女と言はむからに世にある事の公私につけて無下に知らず至らずしもあらむ〉(源氏・帚木)。このカラニ(故に)は,カの母交(母韻交替)[ae],ラの脱落の結果,ケニに転音し,『故。ので。から』という音の方言として,四国・岡山・鳥取・出雲・壱岐でおこなわれている。〈あなたが言ったケニわかった〉。ニが撥音化して備中(俚言増補)・鳥取・出雲・岡山県小田郡・広島・四国・九州ではケンという。四国ではまたケが母交(母韻交替)[ei]をとげてキニ・キンという。」

とケニ系を辿るが,「さかい」は,それとは別に,次のように音韻変化を遂げたものとする。

「『…でございます故』という丁寧語のサウラフカラニ(候ふ故に)を早口でいう場合,サ・カ・エだけが残り,ニのイ音便でサカイに変化した。」

とし,さらに,「さかい」の,

「サカイはカイ[kai]の母韻の融合でサケに転音し,(中略)サカイはまた,サが子交(子音交替)[sh]をとげてハカイになり,…サケもマタハケに転音」

と地域ごとの転訛に触れている。

丁寧語のサウラフカラニ(候ふ故に),

は『大言海』の,

書状文,

と通じるようである。境の転訛というよりは,

候ふ故に,
あるいは,
候ふ間に,

の転訛の方が説得力がある。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:34| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする