2019年04月04日

ふく


「ふく」は,

吹く,
噴く,

と当てる。

「吹」(スイ)の字は,

「会意。『口+欠(人のからだをかがめた形)』。人が体をかがめて口から息を押し出すことを示す」

とある(『漢字源』)。「息をふく」「風がふく」意である。「噴く」(フン,ホン)は,

「会意兼形声。賁(ホン)は『貝(たから)+音符奔(吹き出す,ふくれる)の略体』で,はじけそうに膨れた宝貝のこと。噴は『口+音符賁』。ぷっとはじけるように口から吹き出すこと」

漢字を当てなければ,「噴く」と「吹く」の違いのニュアンスは。その場にいるものに「ふく」だけで伝わった。文字表現ではないのだから,その場にいるものに通じればよかったのである。

『岩波古語辞典』は,

「口をすぼめて息を吐く意。また,風の起こる意」

とし,

「神話では息を吹きだすことは生命の象徴だったので,息・風・霧などは生命の誕生と結びつけられた」

とある。『広辞苑第5版』は,

「語幹フは風が樹木などを吹いて立てる音の擬声音か」

とする。

息を吹く擬態,
か,
風の音の擬音,
か,

ということのようである。『大言海』は,

「脣の所作の聲」

とするので,擬音説である。

『日本語源広辞典』は,二説挙げる。

説1は,「ビュウ・フウ(擬音,pju→hju→hu)+く」で,擬音に語尾「く」を加えた語,
説2は,「フ(含み)+ク(動詞化)」口の中の含みを出す意,

とする。しかし,「含み」は,

「内に物を包み込んで保つ」

意で,「吹く」動作とは異なるのではないか。

utamaro005_main.jpg

(喜多川歌麿 婦女人相十品 ビードロを吹く娘https://www.adachi-hanga.com/ukiyo-e/items/utamaro005/より)


大勢は,

フーという擬音から(国語溯原=大矢徹・国語の語根とその分類=大島正健・日本語原学=林甕臣・音幻論=幸田露伴・江戸のかたきを長崎で=楳垣実),
フクフクという風の音から(和句解),

と擬音説のようである。しかし,他に,

ハルキル(春剪)の反(名語記),
フキク(吹気来)の義(日本語原学=林甕臣),
フク(風来)の義(言元梯),
フレキ(触来)の義(名言通),
フは広がる意,クはうきあがり,また,かきわく意(槙のいた屋)
風に当たると万物が傾くところからカタフク(傾)の上略か(和句解),
フは進行の義。進む所に付止まる義(国語本義),
風の意の中国語fengから(外来語辞典=荒川惣兵衛),

等々珍説がある(『日本語源大辞典』)。風の音くらい,わざわざせ中国から持ってこなくても,吹いているものに名ぐらい付けるだろう。

個人的には,「ふーっ」「ふーふー」という擬態語か擬声語ではないか,と思う。風音はともかく,「ふーっ」は音というよりその恰好

「脣の所作」

ではないか。あるいは,『大言海』の,

「脣の所作の聲」

というところかもしれない。「ふーっ」は,

「口をすぼめて,軽く息を吹きかける音」

とある(『擬音語・擬態語辞典』)。どちらかというと擬態に近いような気もする。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 04:17| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする