2019年04月13日

ためらう


「ためらう」は,

躊躇う,

と当てる。

「躊」(漢音チュウ,五音ジュウ)の字は,

「会意兼形声。『足+音符壽(長くのびる))』」

とある。「壽」(呉音ジュ,漢音シュウ)は,

「会意兼形声。下部は,長く曲がって続く田畑の中のあぜ道を表し,長い意を含む(音トウ,チュン)。壽はそれを音符とし,老人を示す老印を加えた字で,老人の長命を示す。」

とあり(『漢字源』),たちもとほる(徘徊する),意である(『字源』)。

「躇」(漢音チョ,呉音ジョ)は,

「会意兼形声。『足+音符著(くっつける,止める)』」

とあり(『漢字源』),立ち止まる,意である。「躊躇(チュウチョ)」とは,二三歩一手は止まる,躊躇って行き悩む,意である。漢書の,李夫人伝,

「哀裵囘以躊躇」

から来ている(『字源』)。『岩波古語辞典』は,

「タメはタメ(矯)と同根。つのる病勢や高ぶる感情などを押える意。転じて、行動に突き進むことをひかえ、逡巡する意」

とする。どうやら,

「①(感情などを)おさえる。静める。「〔ツノル悲シミヲ〕ややタメラヒて仰言伝へ聞ゆ」〈源氏・桐壺〉
 ②(病勢などを)落ちつかせる。静養する。「風(感冒)おこりてタメラヒ侍る程にて」〈源氏・真木柱〉」

とある,感情を鎮める,落つかせる,という意味が古く,転じて,

「③(行動に移ることを)躊躇する。「別当入道の庖丁を見ばやと思へども、たやすく〔言葉ニ〕うち出でんもいかがかとタメラヒけるを」〈徒然231〉
 ④(進路に迷って)同じ所をさまよう。ゆきつもどりつする。「五六度まで引き返し引き返しタメラヒゐたり」〈盛衰記20〉」

と,躊躇する意となっていくが,あるいは,

鎮める・落ちつかせる→ゆきつもどりつ→躊躇する,

ではなく,

鎮める・落ちつかせる,

意の「ためらふ」に「躊躇」を当てたことで,「躊躇」の意味の,

ゆきつもどりつ,

の意味が現出したのかもしれない。ただ,「矯め」は,

タミ(廻)と同根,

つまり,

ぐるっと廻る,

意である。躊躇の原意と重なるのも,意味の外延としては分かりやすい。

『大言海』も,

依違,
躊躇,
踉蹡,

の字を当て,

「矯めて居る意か。潘岳,射雉賦『踉蹡而(タメラヒテ)徐來』徐爰註『乍行乍止,不迅疾之貌也』」

とするし,『日本語源広辞典』も,

「タム(矯ム)の未然形タメラ+フ(継続反復)」

と,行動の気持ちを押さえつづける」意とする。

①矯めて居る意か〈大言海〉,タメル(矯)の義〈名言通〉,タメはタム(矯)と同根〈岩波古語辞典〉,

とする以外に,

②タチメグラフ(立回)の略か〈和訓栞(増補)〉,
③タメネラヒオフ(矯狙追)の義〈日本語原学=林甕臣〉,
④タメリアフ(揉合)の義〈日本語源=賀茂百樹〉,
⑤タユメル(撓)の義〈言元梯〉,
⑥溜る方に顕れ進む意のタメルアフ(溜顕)の約。タメはタムエ(溜得)の約〈国語本義〉,

等々が挙がる(『日本語源大辞典』)が,『岩波古語辞典』の,

①(感情などを)おさえる。静める,
②(病勢などを)落ちつかせる,静養する,

が他動詞で,

③(行動に移ることを)躊躇する,
④(進路に迷って)同じ所をさまよう,ゆきつもどりつする,

が自動詞で,

「他動詞の方が古く、その後自動詞としても使われるようになって、現代では他動詞として使われる事は無くなったという事のようですね。」

とみる(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10151426380)のが妥当のようである。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 04:02| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする