2019年04月15日

たしなめる


「たしなめる」は,

窘める,

と当てる。

苦しめる,悩ます,
咎める,叱る,戒める,

という,意味ちょっと繋がりの分かりにくい意味を持つ。「たしなめる」は,文語では,

たしなむ,

である。「たしなむ」は,

嗜む,

とも当てる。この両者は,つながっている。「たしなむ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/454039588.html)で触れたように,『岩波古語辞典』には,「たしなむ(嗜む)」

タシナシの動詞形,

とあり,

困窮する,窮地に立つ,
苦しさに堪えて一生懸命つとめる,
強い愛情をもって心がける,
かねて心がけ用意する,
気を使う,細心の注意を払う,
つつしむ,

の意味が載り,「たしなむ(窘む)」は,

タシナシの他動詞形,

とあり,

困窮させる,
苦しめる,

という意味が載る。「タシナシ」は,

「タシはタシカ(確)・タシナミなどのタシ。窮迫・困窮,またそれに堪える意。ナシは甚だしい意」

とあり,

窮迫状態にある,
はげしく苦しい,
老いやつれて病み,また物事に失意のさまである,

という意味になる。『大言海』は,「たしなし」に,

無足,

と当て,

乏し,少なし,窮乏,

の意味を載せる。あるいは,乏しい,という状態表現が,転じて,困窮,という価値表現へと意味が転じた言葉なのかもしれない。

ということは,「たしなむ」は,

(乏しい→)困窮状態にある→それに堪えて懸命につとめる→かねて心がけ用意する→いましめ,つつしむ,

等々と,困窮の状態表現から,それに堪える価値表現へと転じ,そういう状態にどれだけ予め備える心がけへと転じ,それを戒めとか慎みといった価値表現まで広げた,という流れになる。そう考えると,

窘む,

と当てた方が,原義に近く,

嗜む,

は,その意味が拡大し,心がけの価値表現へと転じた意味だと知れる。『日本語源広辞典』は,「たしなむ(嗜む)」

「タシナム(堪え忍ぶ)」の変化,

とあり,転じて,

深く隠し持つ,(常に)心がける,つつしむ,遠慮する,身辺を清潔にする,細かく気を使う,ある事に打ち込む,

の意となるとし,「たしなめる」(窘める)は,

「タシナムの転意」

とするが,逆のように思える。

『大言海』は,「たしなむ」で,四項別に立てている。まず,

窘む,

と当てて,

「足無(たしなみ)の意か」

とした上で,

窮して,苦しむ,
研究す,

の意味を載せる。次に,

矜持,

と当てて,

行儀の正しからむやうにする,

の意を載せる。その次に,

嗜む,

と当てて,

「窘(たしな)みて好む意か」

とし,

たしなむ,好む,
転じて,予(かね)て心掛く,
戒む,
つつしむ,

の意を載せる。そして,最後に,

窘む,

と当てて,

苦しむ,悩ます,困らす,

の意を載せる。どうやら,「矜持」は,「たしなみ」の心がけの延長線上にあるとして,「窘む」と「嗜む」と当てる字を分けて区別しているが,

たしなむ(tasinamu),

という和語が,そもそも端緒としてあるということを思わせる。「たしなむ」の語源について,「窘む」は,

タシナシ(足無)の意か(大言海・国語の語根とその分類=大島正健),

以外には,

足らぬをタシテイトナムの意から(和句解),
タタシナム(直死)の義(言元梯),

しかないので,「乏しい」というのを原義と考えると,

無足,

という大言海解説に傾く。「嗜む」の語源は,

タシナム(手為狎)の義(言元梯),
タシナム(立息嘗)の義(柴門和語類集),
タシナム(饜嘗)の義(語簏),
窘みて好む意か(大言海),

とある。しかし,「嗜む」と「窘む」は,もともと「たしなむ」であった。その意は,

たしなし,

を,

無足(大言海),

タシはタシカ(確)・タシナミなどのタシ。窮迫・困窮,またそれに堪える意。ナシは甚だしい意(岩波古語辞典),

にしろ,

乏しい,
困窮,

の意味が,その意味の外延を伸ばし,

(乏しい→)困窮状態にある→それに堪えて懸命につとめる→かねて心がけ用意する→いましめ,つつしむ,

と拡大したと,考えていいのではないか。因みに,「嗜」の字は,

「耆(キ)は『老(としより)+旨(うまい)』の会意文字で,長く年がたって深い味のついた意を含む。旨は『匕(ナイフ)+甘(うまい)』の会意文字で,ナイフを添えたうまいごちそう。嗜は『口+耆』で,深い味のごちそうを長い間口で味わうこと。旨(シ)と同系のことばだが,『主旨』の意に転用されたため,嗜の字でうまい物を味わうという原義をあらわした。」

とあり,

それに親しむことが長い間の習慣になる,

という意味となる。「窘」の字は,

「『穴(あな)+音符君』。君は(尹は,手と丿印の会意文字で,滋養下を調和する働きを示す。もと,神と人との間をとりもっておさめる聖職のこと。君は『口+音符尹(イン)』で,尹に口を加えて号令する意を添えたもの。人々に号令して円満周到におさめるひとをいうので)丸くまとめる意を含む。穴の中にはいったように,まるく囲まれて動けないこと」

で,

「外を取り囲まれて,動きが取れなくなる,自由がきかないさま」

の意となる(『漢字源』)。「たしなむ」の意味の変化に合わせて,上手い字を当てたものである。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:56| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする