2019年04月26日

スミレ


「スミレ」は,

菫,

と当てる。「菫」(漢音キン,呉音ゴン)の字は,

「会意兼形声。『艸+音符僅(キン 小さい)の略体』で,小さい野菜」

とある(漢字源)。「スミレ」の意ではあるが,「とりかぶと」の意でもあり,「むくげ(槿)」の意でもあり,「菫菜(キンサイ)」というと,セロリを意味する(仝上)。

「『スミレ』の名はその花の形状が墨入れ(墨壺)を思わせることによる、という説を牧野富太郎が唱え、牧野の著名さもあって広く一般に流布しているが、定説とは言えない」

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%83%AC)。

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「スミレ」の名は,それ以前にもあったはずで,

墨入れ(墨壺)を思わせる,

という文献でもあったのだろうか。

春野尓 須美礼採尓等 来師吾曽 野乎奈都可之美 一夜宿二来(春の野にすみれ摘みにと来しわれそ、野を懐かしみ一夜(ひとよ)寝にける)山部赤人

山振之 咲有野邊乃 都保須美礼 此春之雨尓 盛奈里鶏利(山吹(やまぶき)の、咲きたる野辺(のへ)の、つほすみれ、この春の雨に、盛りなりけり)高田女王

茅花拔 淺茅之原乃 都保須美礼 今盛有 吾戀苦波(つばな抜く、浅茅が原のつほすみれ、今盛りなりわが恋ふらくは)大伴田村大嬢

の他に長歌が一首のみ(https://art-tags.net/manyo/eight/m1449.html)と,少ないながら,「須美礼」とある。因みに,「つぼすみれ」(都保須美礼)は,ごく小型で、長く茎を出し、白い花をつける,「スミレ」の一種。

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万葉集期に,「スミレ」と「ツボスミレ」が区別されているほど,すでに知られた花であった。「墨壺」は,

「日本では、法隆寺に使われている最も古い木材に、墨壺を使って引いたと思われる墨線の跡があり、この時代から使われていたとされる。」

という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A2%A8%E5%A3%BA)ほどで,あったとしても一般的ではないのではあるまいか。

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しかし,「墨壺」ではなく,

「花の形,墨斗(スミツボ)の墨芯(すみさし)に似たれば,墨入筆(スミイレフデ)など云へる,略ナラムカト云へる」

とある(大言海)し,『日本語源広辞典』は,それを引き継ぎ,

「墨入れ(筆)の音韻変化」

とする。どうやら,音からきたもののようである。

スミイレフデ(墨入筆)→スミレ(大言海・千草の根ざし),
スミイレ(墨入)→スミレ(日本語原学=林甕臣),

のようである。しかし,筆指は,

「墨さしは、一端がヘラ状、反対側が細い棒状になっています。墨汁を付けて、ヘラ状の側で線を、棒状の側で記号、あるいは文字を書くのに使用します。墨壺、朱壺と共に用いられます。
材質は竹でできています。ヘラ状の側は巾約10〜15mm、先端から約1〜2cmの深さまで縦に薄く割り込みをいれ、ヘラ先の部分を斜めに切り落としています。この部分を曲尺などに沿わせて線を引きます。熟練者は、割り込みを30〜40枚位に極めて薄くいれるといいます。」

とあって(https://www.dougukan.jp/tools/tools_01_02),ペンナイフのように薄いモノだ。どこを指して,「スミレ」が「墨指」に似ているとしたのだろう。墨壺の「池」と呼ばれる墨の入っている部分か,あるいは,墨を蓄える墨入れと、筆を収納する棹部分からなる「矢立」なら,何となく花の形が似ていなくもないが。

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他に,「ツボスミレ」の略,という説(名言通)もある。これ自体,

壺墨入の略(大言海),

とあって,堂々巡りに陥る。納得しかねるが,他に,

スは酸の義。ミレはニレの転で,楡のように滑るところからか(東雅),
ソミレ(染)の義(言元梯),
子供たちが 「相撲 (すまひ)とれ、相撲とれ」と、はやし立てて遊んだ。その「相撲とれ」の転訛(和泉晃一),

という説しかない。ただ,

「花の形が大工道具の『墨入れ(すみいれ・墨壺)』に似ていることからこの名があるとされる。ほかに、古くは春の野に出て若菜を摘む習慣があり、すみれもその若菜の一つとされ、『摘入草(つみいれぐさ)』の『つみれ』が『すみれ』に変化したとする説もある。」

とあり(http://yain.jp/i/%E3%81%99%E3%81%BF%E3%82%8C),

つみいれぐさ→つみれ→すみれ,

説なら,消去法ながら,なんとか納得できる。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル: スミレ
posted by Toshi at 04:01| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする