2019年06月26日

しける


「しける」には,

湿気る,
時化る,

と当てる「しける」以外に,

しけこむ,

の意の,

しける,

がある。江戸語大辞典には,

こっそりと入り込む,遊所や情人のもとへ行くにいう,

とあり,

しけこむに同じ,

とある。しかも厄介なことに,濁点のつく「しげる」も,

繁る,

と当てて,

しっぽり睦み合う,
同衾して情事を行なう,

意で,

多く遊女・遊客にいうが陰間にもいい,また町家でもいう。遊里で「おしげり」(命令形)というは,お楽しみなさいと殆ど同義のあいさつ語,

とある(江戸語大辞典)。岩波古語辞典にも,「しげる」に,

生い茂る,

意の外に,

男女が情を交わす,

意がある(広辞苑にも)。大言海をみると,「しげる」の項の意は,

吉原遊郭の語,ねる,やすむ,

意とあるので,それが広まったものとみていい。

とすると,「しけこむ」の「しける」は,その意味から来ているとみていい。本来,「しけこむ」は,

こっそり入り込む,

意で,岩波古語辞典にはその意しか載らない。だから,その意の轉用で,

(不景気で)気の滅入った状態で閉じこもる,

意として使われても,たた入り込んだ状態表現が,そこに意味を加えた価値表現に転じたとしてみれば,ありえる変化だと思う。しかし,

遊郭などに入り込む。また、男女が情事のためにある場所に一緒に泊まる,

とか(デジタル大辞泉),

男女,共寝する,
閨中に長居する,

とか(大言海),

登楼する,
遊所へ入り込む,

とか(江戸語大辞典)の意は,吉原隠語の翳と見ていいように思う。この「しける」の語源を,

「時化る」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/467446693.html?1561403255),

で触れた,

時化る,

の意から,

時化(しけ)に遭った船が港に入ること,

からきた,

金がないために家でじっとしている,

とする説がある(大辞林,http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A4%B7%A4%B1%A4%B3%A4%E0等々)。しかし,

しっぽり,

という擬態語がある。江戸時代,「男女の情愛の細やかな遊興」の意を表す,

しっぽり遊び,

とか,「しめやかに男女が情を交わす」意を表す,

しっぽる,

という言い回しがあった。「しっぽり」は,

濡れて湿っている様子,

の擬態語である。それから考えると,「時化る」と同源だが,

湿気る,

が語源なのではないか。その意味では,日本語俗語辞典が,

しけこむとはホテルや遊郭などにこっそり入り込むことをいう。またこの場合、男女二人が共に過ごすことを目的にそういった場所に入ることを言う,

意と,

しけこむとは不景気で気が滅入って家に閉じこもることをいう,

に二つに分けたのは,語源を考えるとき卓見である。前者は,

湿気る,

後者は,

時化る,

から来たとみていい。もちろん,「時化」は,元は,

天気が曇る,

から来ており(日葡辞書),

「時化る」

「湿気る」


同源なのは,「時化る」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/467446693.html?1561403255)で触れた通りである。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:37| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする