2019年06月29日

さみだれ


「さみだれ」は,

五月雨,

と当てる。芭蕉の,

五月雨をあつめて早し最上川,

の「五月雨」である。しかし,

五月雨,

は,

さつきあめ,

とも訓む。つまり,「さみだれ」の,

五月雨,

は当て字である。「さつきあめ」も「さみだれ」も,

陰暦五月頃に降り続く雨,

つまり,

「つゆ」「梅雨(ばいう)」「長雨(ながめ)」

の意である。

「サはサツキ(五月)のサに同じ,ミダレは水垂(みだれ)の意」

とある(広辞苑,デジタル大辞泉)。ただ,岩波古語辞典は,

「サはサツキ(五月)のサに同じ」

としかない。「さつき」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/458763376.html)で触れたように,「サ」は,

「サは神稲,稲を植得る月の意」(岩波古語辞典),

とあり,大言海は,

「五月を,早苗(さなえ)月とも云ふの,早苗を植うる月の義なり。…早苗を下略する語に,早少女(さをとめ),早開(さびらき),早上(さのぼり),早下(さおり)などあり。またこのサを,五月のことに用ゐらる。五月蠅(さばえ),五月雨(さみだれ),五月夜(さよ)など,これなり」

とし,日本語源広辞典は,

「『サ(稲の神)+月』です。稲作の神が,田植えを見守ってくださる月です。サトメは,早乙女は当て字で,稲作に奉仕するオトメです。サナエは,稲作の心霊の宿った苗,古典に出てくるサニワは,農業の神を祭る神聖な斎場なのだという意味も納得できます。」

とする。そうみると,「さみだれ」は,

サ+水垂れ,

の意味は深く,

「サは『稲の神』です。水垂れは『雨』のことです。田植えのころ,ありがたい雨が降り続く。梅雨の別名なのです。サツキ,サナエ,サオトメ,サニワ,サナブリ,これらに共通するサは『稲の神,田の神,農業の神』を意味します。田植えの期間に,天から地上に降りて来て下さる神です」

との説明が納得がいく。

さみだる(早水垂る),

ということばがあり,

「サはサツキ(五月)のサに同じ」

で(岩波古語辞典),

「水垂(みだ)るは,雨降ること。…即ち,五月雨(さつきあめ)降る義なり」

とある(大言海)。

「『みだれ』は『水垂れ(みだれ)』である。古くは、動詞『五月雨る(さみだる)』と使われており、五月雨はその名詞形にあたる」

とある(語源由来辞典)。

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(歌川国貞 『五月雨(さつきあめ)の景』 http://morimiya.net/online/ukiyoe-syousai/R113.htmlより)


要は,

「『さ』はさつき(五月)の『さ』と同根。『万葉集』など上代の文献には確認できない。上代では季節にかかわりなく『三日』以上(の)雨」(『十巻本和名抄』)をいう『なが(あ)め』に包含されていたと思われる」

ということ(日本語源大辞典)のようである。

しかし,異説もあり,

サ-アメタレ(雨垂)の転で,サはサツキ(五月)のサ。あるいは,シバアメツモリ(数雨積)の反。または,サメは雨,タレはクダレのタレ(名語記),
サツキアメクダル(五月雨下)の略轉(日本釈名・滑稽雑誌所引和訓義解・和訓栞),
サツキアメタレ(五月雨垂)の義(名言通),
サツキミダレアメ(和訓集説),
サは田植えに関するわざを意味する語で,サナへ(佐苗)・サヲトメ(佐乙女)のサに同じ。ミダレ(乱)は久しく雨降る意(古事記伝・俗語考),
サナヘミダルルアメ(早苗乱雨)の義(黄昏随筆),
乱れ降る雨であるところから,サメミダレ(雨乱)の略(幽遠随筆),
ソラミダレ(空乱)の義(日本語原学=林甕臣),
小乱雨の義(俚言集覧),

等々あるが,語呂合わせを出ない。音韻変化から,

「長雨(梅雨)に雨ごもりして『雨はもう十分である』という意味でアメタル(雨足る)といった。[s]を添加してタメタル・タミダル(五月雨る)になった」

とする説(日本語の語源)も,説得力を欠く。

「五月雨」の「五月」の陰暦の季節感が薄いため,梅雨と重なりにくいのが,現代感覚だが,この点を,

「当て字である漢字の字面からは新暦の五月頃に降るさわやかな緑雨、あるいは『五月雨式(さみだれしき)』という慣用句の印象から、継続的に降る小雨を連想させるが、旧暦五月は現在の六月頃にあたるので、五月雨はなんのことはないじめじめとうっとうしい梅雨であり、さらに『五月雨を集めてあつめてはやし最上川』(芭蕉)、『五月雨や大河を前に家二軒』(蕪村)という名句からも知れるように、長々と大量に降る雨でもある」(笑える国語辞典)

と警告する。確かに,五月に騙されて,

「現代の五月のすがすがしさや、ぱらぱらと小刻みに降る春の雨」

とは異なる,激しく長く降る雨の意,である。なお,

つゆ(http://ppnetwork.seesaa.net/article/458783261.html),
あめ(http://ppnetwork.seesaa.net/article/459999594.html),
さつき(http://ppnetwork.seesaa.net/article/458763376.html),

については,それぞれ触れた。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
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コトバの辞典;
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スキル事典;
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書評
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posted by Toshi at 03:42| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする