2019年07月03日

きる


「きる」は,

切る,
斬る,
伐る,
截る,
剪る,

等々と当てる。漢字で当て分けなければ,「着る」も「切る」も区別は出来ない。

「切」は,刀にて刻みきるなり,聶而切之為膾とは,さしみ庖丁にて,さしみをつくることを云ふ。膾はさしみなり,
「斬」は,人を斬殺するなり,転じて,何物にても斬りはなすに用ふ,禮記「為宮室不斬於邱木」,
「伐」は,斬り倒すこと,詩經「伐木丁丁」,
「截」は,たつとも訓む。寸寸に断ち切るなり,
「剪」は,剪は俗字,正しくは,翦。「翦」(セン)は,そろへて切るなり,さみを翦刀と云ふ,
「斫」は,斬に同じ。ひといきに切り落す義,斫首・斫竹木の類,

と,漢字は使い分ける(字源)。「切」(漢音セツ,サイ,呉音セチ,セイ)の字は,

「会意兼形声。七は,|印の中程を―印で切り取ることを示す指事文字。切は『刀+音符七』で,刃物をぴったりと切り口に当てて切ること」

とある。「七」は切の原字である。「斬」(ザン,漢音サン,呉音セン)の字は,

「会意。『車+斤(おの)』で,車をおので切ることを示す。鋭い刃が割り込むこと」

「伐」(バツ,漢音ハツ,呉音ボチ)の字は,

「会意。『人+戈(ほこ)』で,人が刃物で物をきり開くことを示す。二つにきる,きりひらくの意を含む」

「載」(漢音セツ,呉音ゼチ)の字は,

「会意。『雀(小さいすずめ)+戈(ほこ)』で,きって小さくすることをあらわす。絶や切ときわめて近い。残(小さくきる)は載の語尾tがnに転じたものである」

「翦(剪)」(セン)の字は,

「会意兼形声。前のリを除いた部分は『止(あし)+舟』からなる会意文字で,左右の足先をそろえて前進する会意文字。前はそれに刀(刂)を加えた字で,刀で端をそろえて切ること。剪は『刀+音符前(そろえてきる)』。前が『前進』の意に専用されるようになったため,剪,翦の字がつくられてその原義を表すようになった」

とある(漢字源)。

和語「きる」は,

「物に切れ目のすじをつけてはなればなれにさせる意。転じて,一線を画して区切りをつける意。類義語タチ(断)は,細長いもの,長く続くことを中途でぷっつりと切る。」

とある(岩波古語辞典)。大言海は,「きる(切・断)」を,

「刈(か)る,伐(こ)るに通ず,段(きだ),刻(きざむ),岸,際(きは)などと語根を同じうす」

とする。「刻む」について,岩波古語辞典は,

「キザはキダ(段・分)と同根。区切りをつけて,切り分ける意」

とする。さらに,「きは(涯・際)」について,

「キリハ(切端)の約か。先が切り落されているぎりぎりの所,断崖絶壁の意が原義」

とする。「きし(岸)」は,

「断石(キリイシ)の,キリシ,キシと約略したる語ならむ。假蘆(かりいね),かりほ。新伐治(アラキリハリ),あらきりばり。明石(あかいし),あかし。出石(いづいし),いづし」

とある(大言海)。

ちなみに,「きだ(段・分)」は,

物の切れ・きざみ目を数える語,

であるが,大言海は,

「刻(きざ)つと通ず,栄螺(さざえ),さだえ。腐(くさ),くだ」

と,刻むとの関連をつける。そして「刻む」は,

「段段(きざきざ)を活用せしむ,軋軋(きしきし)をキシムと活用せしむと同じ」

とする。こうみると,

「キ(切断・分断)+る」

とする日本語源広辞典のぶっきらぼうな説は,存外無視しがたくなる。

擬態語の,

ぎざぎざ,

は,

きざきざ,

ともいい,かつては,

「『悲しみの腸(はらわた)キザキザに断つとは』(浄瑠璃『傾城酒呑童子』)のように,細かく切り刻む様子をいった。それが切り刻んだあとの状態をいうようになり,明治時代以降に語頭が濁音化して『きざぎざ』に転じた」

とある(擬音語・擬態語辞典)。

この「き」も含め,

キは(際・涯),
キし(岸),
キざし(刻),
キだ(段・分)
キざはし(刻橋),
キだはし(階),
キり(錐),

の「キ」は,切れた状態の擬態語から来ているのかもしれない。

刈る
伐(こ)る,

のka,koもkiとつながると見ることはできる。

なお,大言海は,「き」(寸)の項で,

切るの語根,

とあり,

「(万葉集,『玉刻(たまき)春』『眞割持(まきもたる)』),段(きだ)の意。食指(ひとさしゆび)の中程の二節の間にて度(はか)りたる語なるべし」

とあり,「き」が物差しの単位になっていたこともわかる。この「き(寸)」は,

「大凡,後に云ふ寸ほどなるべし」

ともある。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
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書評
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posted by Toshi at 03:50| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする