2019年07月12日

濡れる


「濡れる」は,

ぬれる(ぬる),

と訓ませるが,

うるお(ほ)す,

とも訓ませる。「うるお(ほ)す」は,

潤す,

とも当てる。「濡」(漢音ジュ,呉音ニュウ)は,

「会意兼形声。需(ジュ)は『雨+而(やわらかいひげ)』の会意文字で,雨のつゆにぬれて垂れたひげのように柔らかいこと。のち須(ねばって待つ)に当て,需用(待ち求める)の意に用いる。濡は『水+音符需』で,需の原義(ぬれて柔らかい)を示す」

とある(漢字源)が,

「会意兼形声文字です(氵(水)+需)。『流れる水』の象形と『雲から雨がしたたり落ちる象形とひげの象形(「ひげをはやした巫女(みこ-神に仕える女性)」の意味)』(『雨ごいする巫女』、『求める』の意味)から、雨ごいをして『うるおう』を意味する『濡』という漢字が成り立ちました。」

とある(https://okjiten.jp/kanji2567.html)方が,「うるおう」意も説明できている

「潤」(漢音ジュン,呉音ニン)は,

「会意兼形声。閏(ジュン)は,『門+王』の会意文字で,暦からはみ出た『うるう』のとき,王が門内にとじこもって静養するさまを示す。じわじわと暦の計算の外にはみ出てきた日や月のこと。潤は『水+音符閏』で,じわじわとしみ出て,余分にはみ出る水のこと」

とある(漢字源)が,

「会意兼形声文字です(氵(水)+閏)。『流れる水』の象形(『水』の意味)と『左右両開きになる戸の象形と3つの玉を縦ひもで貫き通した象形(「宝石」の意味)』(門内に財貨があふれ『家がうるおう』の意味)から、『(水気を含んで)うるおう』を意味する『潤』という漢字が成り立ちました」

の方(https://okjiten.jp/kanji1491.html)が意味に近い気がする。「濡」と「潤」の使い分けは,

「潤」は,うるほひなり。つやのある義。澤(つや)なり。「河潤九里」は,河川のほとり,九里の間をしめるに非ずして,其の邊の草木皆水気のうるほひを受るなり。「富潤屋,徳潤身」も,皆つやある義,
「濡」は,沾と略々同じ。唐書張旭傳「旭大酔,以頭濡墨而書」。「沾」は,水のかかりてしっぽりとぬるること。霑と同字なり。史記「汗出沾背」,同書「置酒而大雨,陛盾者皆沾寒」,

とある(字源)。

「ぬれる」と「うるほひ」とは,全く別なので,本来,「濡」を「うるほひ」と訓ませるのは,間違いかもしれない。

「ぬれる」は,

物の表面にたっぷり水分がつく,水などかかかってしみこむ,

意で,それをメタファに,

男女が情交する,

意に転じさせたのは,江戸時代のようである。

濡れ場,
濡れ事,

等々その意に転じた言葉が江戸語大辞典には氾濫する。

「濡れる」の文語「潤(ぬ)る」について,岩波古語辞典は,

「塗ると同根か」

とし,

「湯・水・涙など水分が物の表面につくい。類義語ヒツ(漬・沾)は,物がとっぷり水につかる意」

とする。しかし日本語源広辞典は,「塗る」は,

「ヌ(ナヅの約)+ル」

とする。「ぬる」と「ぬれる」では語感が違い過ぎ,たしかに,

撫ぜる,

の方が,「塗る」語感と近い気がする。しかし「なづ(撫)」は,

ナダラカ・ナダメ(宥)と同根(岩波古語辞典),
長閑(のどか)のノドの活用(大言海),

と,これも持っている語感と違うように思える。

「ぬれる」の語源には,

ヌメル(滑)の義(名言通),
ヌラヌラになることをいうところから(日本語源=賀茂百樹),
ヌリ(塗)から出た語(和句解),
ヌイル(泥入る)の義(言元梯),

等々あるが,はっきりしない。「ぬらぬら」は,

物の表面に油や粘液が付いて光沢を帯び,つかむと滑る様子,

とある(擬音語・擬態語辞典)。さらに,

「『ぬらぬら』は視覚的に滑りそうな光沢を帯びた様子も含めていうが,『ぬるぬる』は触れて滑る感じのみをい」

うともある(仝上)。確定的なことは分からないが,「ぬ(れ)る」は,

塗る,
撫でる,
ぬらぬら,

等々と照らしているが,むしろ,

泥む,

の感覚と近いのではないか。「なずむ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/428971428.html)で触れたように,岩波古語辞典には,「なづみ」の項で,

「ナヅサヒと同根。水・雪・草などに足腰を取られて,先へ進むのに難渋する意。転じて,ひとつことにかかずらう意」

とある。「ナヅサヒ」を見ると,「ナヅミ」と同根とあって,

水に浸る,漂う,
(水に浸るように)相手に馴れまつわる,

とある。「なづさひ」は,「ぬれる」と同義である。この「なづ」は,

撫でる,
塗る,

の,「na」「nu」と重なってくる。この辺りに,「濡れる」の「nu」もつながるのではないか,とすれば,岩波古語辞典の,

「塗ると同根」

は,語源としては至当なのかもしれない。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
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書評
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posted by Toshi at 04:11| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする