2019年07月15日

しめる


「しめる」は,

湿(濕)る,

と当てる。「湿(濕)」(シツ,漢音・呉音シュウ)の字は,

「会意。もとの字は『水+絲+土』で,生糸をやわらかくするため,深く水面下に沈めてぬらすさまをあらわす。濕はねその上に日印を加え,下の土印を省いた字」

とある(漢字源)。これだと分かりにくいが,

「『流れる水』の象形と『糸』の象形から、糸に水をつけたさまを表し、そこから、『しめらす』を意味する『湿』という漢字が成り立ちました」

が分かりやすい(https://okjiten.jp/kanji1490.html)。

似た漢字は,

「濡れる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/467863368.html?1562872284
や,
「うるほふ(うるおう)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/467885244.html?1562956664

で触れたように,「濕」「澤」「潤」「濡」「霑」があるが,次のように使い分けている。

「濕」は,乾の反。しめるなり,易經「火就燥,水流濕」,
「潤」は,うるほひなり。つやのある義。澤(つや)なり。「河潤九里」は,河川のほとり,九里の間をしめるに非ずして,其の邊の草木皆水気のうるほひを受るなり。「富潤屋,徳潤身」も,皆つやある義,
「澤」は,つやあるなり。潤に近し。潤澤と用ふ,
「霑」は,沾と同字。「沾」は,水のかかりてしっぽりとぬるること。霑と同字なり。史記「汗出沾背」,同書「置酒而大雨,陛盾者皆沾寒」,
「濡」は,沾と略々同じ。唐書張旭傳「旭大酔,以頭濡墨而書」。「沾」は,水のかかりてしっぽりとぬるること。霑と同字なり。史記「汗出沾背」,同書「置酒而大雨,陛盾者皆沾寒」。

「しめる」は,

水気を帯びる,水にうるおう,

の意から,

水気で火が消える(「火しめりぬめりとてあかぬれば,入りてうちふす程に」蜻蛉日記),
静かになる,しずまる(「夜深き程の,人のけしめりぬるに」源氏),
勢いが衰える(「やうやう風なほり,雨の脚しめり,星の光も見ゆろに」源氏),
落着いている(「これは人ざまもいたうしめり恥ずかしげに」源氏),
物思いに沈む(「思ふ事の筋々嘆かしくて,例よりもしめりて居給へり」源氏),
雰囲気が沈む(「女郎が未だお出なく,御座敷しめって見ゆるとき」傾城禁短気),

と,様々にメタファとして使われる。

湿気を含む→勢いが衰える→しんみりと沈む,

といった流れだろうか。

「しめる」は,

シム(浸む)と同根,

とある(岩波古語辞典)。大言海は,

沈めるの転,

とする。「しめる」は「しむ」の口語。「しむ」は,

染む,
浸む,

とも当てる(http://ppnetwork.seesaa.net/article/463683479.html)。

濡(うるお)ひ,徹(とほ)る,染む,

意である(大言海)。岩波古語辞典は,「しむ(浸・染)」は,

「ソミ(染)の母韻交替形。シメヤカ・シメリ(濕)と同根。気体や液体が物の内部までいつのまにか深く入り込んでとれなくなる意。転じて,そのようにこころに深く刻みこまれる意」

とする。「しめる」は,

「染みる」の音韻変化,

とする(日本語源広辞典)のが,当然考えられる。

シミル(染)の義(名言通),
シム(浸),シメヤカと同源(日本古語大辞典=松岡静雄),

も同趣旨である。あるいは,「そむ」「しむ」の,「so」「si」は,

シは水分の義(国語の語根とその分類=大島正健),

なのかもしれないが,判断できない。ただ,「し」という,

息・風,

と当てる,

複合語になった例だけ見える,

言葉がある。

し長鳥,

とは,水中に長く潜っていられる鳥,

の意である。この「し」を「息」とするが,「水」とも考えられる。とすると,「しむ」は,「し」を活用させた言葉ということになる。現に,大言海は,「し」を,

水,

とあて,

「水(すゐ)の音の約」

とし,

水良玉(しらたま),水長鳥(しながどり),しがらみ,しずく,したたる,しむの類例,

と挙げる。「みず」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/448460590.html)で触れたように,「水」は,

み,

でも,「水」を意味した。

垂水(たるみ),
水草(みくさ),
水漬き(みづき),
水(み)な門(と),
水(み)際,
水(み)岬,
水(み)鴨,
水(み)菰,
みかみ(水神),
みくさ(水草),
みぎわ(汀),
みくまり(水配り),
みづく(水漬く)屍,
みぎり(砌),
みなくち(水の口),
みお(水脈・澪・水尾),

等々多くの例がある。この「み」と「し」との関係は分からない。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
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posted by Toshi at 03:34| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする