2019年08月06日

刎頸の交わり


「刎頸の交わり」とは,

生死を共にして,頸を刎ねらるとも,渝(かは)らざる親交,

の意(大言海)である。「知己」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/462034468.html)は,「史記列伝」の,

士は己を知る者の為に死す,

に基づく,

自分の心をよく知っている人,

の意だが,「知音」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461615668.html)は,

子期死して伯牙復琴をかなでず,

断琴の交わり,

とも言うような,相手が死ぬと,

世に復た琴を鼓すに足る者無し,

と言わしむるような友を指す。

莫逆の友,
竹馬の友,
肝胆相照らす,
管鮑の交わり,
金蘭の交わり,

等々,いずれも友の意だが,「刎頸の交わり」は,単なる友情を指すのではない,と思う。出典は,「史記」廉頗藺相如伝の,

「廉頗,…至藺相如門,謝罪曰,鄙賤之人,不知将軍寛之至此也,卒相與驩,為刎頸之交」

の,

卒(つひ)に相与に驩(よろこ)びて刎頸の交はりを為す,

から来ている。その謂れは,少し長いが,

「藺相如は大国秦との外交で体を張って宝物『和氏の璧』と趙の面子を守り、趙王に仕える宦官の食客から上卿(大臣級)に昇格した。しかし歴戦の名将である廉頗は、口先だけで上卿にまで昇格した藺相如に強い不満を抱いた。それ以降、藺相如は病気と称して外にあまり出なくなった。
ある日、藺相如が外出した際に偶然廉頗と出会いそうになったので、藺相如は別の道を取って廉頗を避けた。その日の夜、藺相如の家臣たちが集まり、主人の気弱な態度は目に余ると言って辞職を申し出た。だが藺相如は、いま廉頗と自分が争っては秦の思うつぼであり、国のために廉頗の行動に目をつぶっているのだと諭した。
この話が広まって廉頗の耳にも入ると、廉頗は上半身裸になり、いばらの鞭を持って、『藺相如殿、この愚か者はあなたの寛大なお心に気付かず、無礼をしてしまいました。どうかあなたのお気の済むまでこの鞭で叩いて下され』と藺相如に謝罪した。藺相如は『将軍がいてこその趙の国です』と、これを許し、廉頗に服を着させた。廉頗はこれに感動し『あなたにならば、たとえこの首をはねられようとも悔いはございませぬ』と言い、藺相如も同様に『私も、将軍にならば喜んでこの首を差し出しましょう』と言った。こうして二人は互いのために頸(首)を刎(は)ねられても悔いはないとする誓いを結び、ここに『刎頸の交わり』という言葉が生まれた。この二人が健在なうちは秦は趙に対して手を出せなかった。」

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%8E%E9%A0%B8%E3%81%AE%E4%BA%A4%E3%82%8F%E3%82%8A)。

この話には前段があり,趙の「和氏の璧」(かしのへき)という天下に名高い国宝を,秦王がぜひともこほしいから秦の15城と交換しないかと言ってきました。趙の側としては願ってもいない破格の好条件です。しかし、約束が守られる保障はまったくありません中国一の強国に対しては,「和氏の璧」を持って秦に伺うのが礼儀。この大役を任され,無事に持ち帰ったのが「食客」であった藺相如(りんしょうじょ)であった(http://housuu.com/c4.html)。

刎頸の交わり,

に似ているのが,

水魚の交わり,
爾女の交わり,

等々がある。よく似ているのが,

水魚の交わり,

で,

水と魚のような交わり,

の意で,「蜀志」諸葛亮傳の,

「狐之有孔明,猶魚之有水也。願諸君勿復言」

による。「狐」は帝王の自称,つまり,

劉備が諸葛孔明と自分との間柄をたとえた,

ものなので,単なる友情を指してはいない。

爾女の交わり,

も,

互いに「おまえ」「きさま」などと呼び合うようなきわめて親密な交際,

を指すが,単なる友情を指しているように思える。

こう見ると,個人としての友情の強さを示す言葉はたくさんあるが,

刎頸の交わり,
水魚の交わり,

のように同志,というか共に何かを目指すという交わりを表現する言葉が意外と少ないのに気づく。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:44| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする