2019年08月09日
ほざく
「ほざく」は,
他人がものを言うのをののしっていう語(「ヤア餓鬼も人数、しをらしいことホザいたり」浄瑠璃・国性爺合戦,「ぬけぬけとホザくな」),
動詞に添えて、他人の行動をののしっていう語(「盗みホザいたな」浄瑠璃・心中天の網島),
というあまりいい言葉遣いではない(広辞苑)。
「ホサクの転か」
ともある。「ほさく」は,
祝い事を言う,ほぐ(祝ぐ),
と,
呪い事を言う,呪う,
の両様の意味がある(仝上)。「ほぐ」は,
平安時代まで清音,
とあり,
ほ(祝)く,
であった。
良い結果があるように,祝いの言葉を述べる,たたえて祝う,
と,
悪い結果になるように呪詞を述べて神意を伺う,呪う,
意がある。岩波古語辞典には,「ほぐ」は,
祝ぐ,
禱ぐ,
を当て,
祝い言を言う,
意しかない。「のろう」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/403152541.html)で触れたように,呪う
は,語源的には,
「祈る(ノル)」+「ふ」
で,基本は,「祈る」の延長戦上にある。「のろう」は,
呪う,
詛う,
咒う,
と当てる。「呪」(咒 ジュ,呉音シュ,漢音シュウ)は,
口+兄
で,もともとは,「祈」と同じで,神前で祈りの文句を称えることなのだが,後,「祈」は,
幸いを祈る場合,
「呪」は,
不幸を祈る場合,
と分用されるようになった,とある(漢字源)。「詛」(漢音ソ,呉音ショ)の,
且
は,俎(積み重ねた供えの肉)や阻(石を積み重ねて邪魔をする)を示す。「詛」は,その流れで,
言葉を重ねて神に祈ったり誓ったりする,
の意味だ。どちらも,神に祈る行為の延長戦上で,
自分の幸,
ではなく,
他人の不幸,
を祈るところへシフトする。しかも,
他人の不幸を実現することで自分の幸を実現しようとする
という,屈折した祈りだ。「呪う」意にしろ「祝う」意にしろ,
ほさく,
と,相手が物を言うのを嘲る,
ほざく,
では,ちょっと含意が異なりはしまいか。いまひとつ,
ほた(嘐)く,
由来とする説がある(日本語俗語辞典)。
自慢そういう,
意である。少なくとも,
勝手にほざいてろ,
という使い方の意味とはつながる。この転訛ではあるまいか。
ほたく(自慢そうにいう)→ほざく(言うことを罵る),
の転化なら,あり得る。
「ほざくとは『話す・言う』という意味で、他人の話しの内容や話した人に対して罵る意を込めて使われる言葉であるこのため自分が話す行為を『ほざいてやった』『ほざいてくる』といった使い方はしない。ただし、若者の間で聞き手を罵る意を込め、あえてこういった使い方をすることが増えている。また、反省をする場合に『あんな風にほざいてごめん』という形では昔から使われている。」
という(仝上)用例から見ると,「うそぶく」意の,
吹く,
含意がある。あるいは,それを揶揄する意味がある。
「『天皇が自分の意見を世に伝える』という意味で使われていた尊敬語『のたまう』は、現在では、『これはまた異なことをのたまうものだ』『また酒に酔ってのたまっていた』など相手の言うことに、皮肉めいたニュアンス伝えるために使われることがあります。現在の『のたまう』に近いニュアンスの言葉に『ほざく』があります。」
とある(https://tap-biz.jp/lifestyle/word-meaning/1052998)のは,「ほざく」と「のたまう」の,相手の言動を揶揄する含意に着目したものとみることができる。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95