2019年08月11日

にやける


「にやける」というと,

にやついている,
にやにやしている,

という意味に思う。しかし,

ニヤケの動詞化,

として,

男などがめめしく色めいた様子,

とある(広辞苑)。「にやけ」は,

にゃけ,

とも言い,

若気,

と当て,

若衆,かげま,
男子の色めいた姿をしたさま,

とあり,「かげま」の意味の転化なのか,

肛門,

の意もある(広辞苑)。岩波古語辞典には,「にやける」は載らない。代わりに,

若衆,
若俗,

と当てる,「にゃくぞく」が載り,

若い人,十四,五から十八,九歳までの若者,
特に,男色の対象としての若衆,

とあり,さらに,

若道,

とあてる「にゃくだう」は,

男色,

を指す。大言海は,

若衆道の略,

とし,

弱(にゃく)の音の活用か,

とする。「若気」は当て字なので,なよなよしたさまを「弱(にゃく)」としたのは頷けなくもない。

江戸語大辞典は,「にゃける」に,

若気る,

と当て,

にゃくけ(若気)→にゃけ(縮約)→にゃける(動詞化),

の転訛とし,

男の容貌・風姿が女性的である,
男のくせになまめかしい,

の意を載せる。しかし「にゃけ」に,

にやけたさま,

としているので,この時点で,本来別の,

にやける,

という意味が重なっていることを思わせる。

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にやっ,
にやにや,
にやり,
にやつく,

は,

声に出さず薄笑いを浮かべるさま,

の意の擬態語である。「にやにや」は,

「鎌倉時代から見られるが,当時は者が粘りつく様子を表した。『ねばき物を「にやにやとある」といへる如何といっているのはなぜか』(名語記)。『にやにや』笑うことを意味する『にやつく』も本来は,粘りつくことを表す語だった」

とある(擬音語・擬態語辞典)。さらに,こう付け足す。

「『にやつく』の類義語である『にやける』は本来は男色にかかわる語で,男性が女性のように艶っぽくふるまうことを表した。『にやにや』『にやつく』『にやける』が,薄笑いを浮かべる様子を表すようになるのは,明治時代以降である」

とある。

「にやける」は,語源由来辞典に,

「鎌倉・室町時代に男色を売る若衆を呼んだ言葉で、『男色を売る』という意味から『尻 (特に肛門)』も意味するようになった語である。」

とあるので,

にやける(若気),

にやにや,

は,全く別の意味で同時代に,共存していたことになる。「にやにや」が,

粘りつく→薄笑い,

へと転じたのが明治,「にやける」は,江戸期を通じて,

若衆,

の含意を保ち続けている。ここからは憶測だが,確か新渡戸の武士道美化に対して,

「薩摩琵琶と関係の親密な『賤のおだまき』は之を何とか評せん。元禄文学などに一つの題目となれる最も忌まわしき武士の猥褻は,余りに詩的に武士道を謳歌する者をして調子に乗らざらしむる車の歯止めなるべし」

との批判があった(http://ppnetwork.seesaa.net/article/388163232.html)。そうした男色への批判的な空気が,

にやつく,

にやける,

の意味を重ねたのではないか。本来,

にゃける,

であった「若気る」が,

にやける,

になったのは,明治である(日本語源大辞典)。「にやける」と「にやつく」が重なるはずである。

平成23年度の「国語に関する世論調査」では,「にやつく」の意味を,

薄笑いを浮かべている・・・・・・・・ 76.5%,

とし,

なよなよとしている・・・・・・・・・ 14.7%,

の意味を圧倒している。いまや,

にやつく,

にやける,

の意味は重なって使われている。

参考文献;
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:46| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする