2019年08月24日

スカンピン


「スカンピン」は,

素寒貧,

と当てる。

貧乏で何も持たないこと,まったく金がないこと,またそういう人やそのさま,

の意である。江戸語大辞典にも,

赤貧,

の意で載る。

素寒貧,

は江戸時代に当てた当て字である(日本語源広辞典・日本語俗語辞典)。嚆矢は,江戸中期の国語辞典,

俚言集覧,

らしく,

「『俚言集覧』において〈素寒貧〉の字が当てられて以降そのような漢字で表記し,赤貧のさまをいうようである」

とある(日本語源大辞典)。しかし,

「まず、中国に『寒貧(かんぴん)』という言葉がありました。「ものすごく貧しい」という意味です。ちなみに、この場合の『寒』は『さむい』という意味ではなく、『貧しい』という意味で、同じ意味の漢字を重ねた強調表現です。一方、江戸時代には『素(す)』という接頭語が、よく使われました。強調の意味を表わすための接頭語で、『素浪人』であれば『ただの浪人』、ほかに『素っ裸』や『素っ頓狂(すっとんきょう)』など、あまり良くない方のニュアンスで使われることが多かったようですね。『素寒貧』も、このようにして出来上がった単語のひとつです」

とする説明が載るhttps://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1275418157。しかし,漢和辞典を見る限り,

貧寒,

は載る(字源・漢字源)が,

寒貧,

は載らない。「寒」は,もちろん,

貧乏で苦しい,
物が乏しくて苦しい,

意である。むしろ,

寒貧,

は,

素寒貧,

があって,その意で用いられている。順序は逆に思える。

「素」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/434943171.html?1565131762)は,既に触れたように,「す(素)」「そ(素)」と訓み方で使い分けている。「す」と訓むと,

ありのまま,

という系統で(「素顔」「素うどん」「素手」),日本特有の使い方は,

「日本の音楽・舞踊・演劇などの演出用語。芝居用の音楽を芝居から離して演奏会風に演奏したり、長唄を囃子(はやし)を入れないで三味線だけの伴奏で演奏したり、舞踊を特別の扮装(ふんそう)をしないで演じたりすること」

と意味を拡大したり,「素」をつけて,

「素寒貧」「素町人」と,軽蔑の意味を込める,
とか,
素早い,すばしっこい,

と,程度のはなはだしいのに使うし,まじりっけなしという意味で,

「 素顔」「 素肌」「 素うどん」「 素泊り」

と使う。しかし,これは,我が国だけでの使い方らしい。

一方,「そ(素)」と訓ませて,

白い,生地のまま,

という系統で,飾りっ気のない(「素服」「素地」「素因」「素質」「簡素」「素行」「平素」「素描」「素朴」等々。しかし「素性」は「す」と訓む)という意味の範囲になる。

閑話休題。

で,「スカンピン」だが,日本語源広辞典は,

スカリ(全く)+ピン(貧乏),

の音韻変化とする。それは,たとえば,

すっかりびんぼう,

を,

スッカリビンボウ→スカンビン→スカンピン,

と縮約し,転訛したものということだろう。

「いつも出入しけるすかんひんの牢人来りけるに」(咄本・正直咄大鑑)

という用例があるので,

スッカリビンボウ→スカンビン→スカンヒン→スカンピン,

という転訛かもしれない。似た説に,

スッカリビンボウ(悉皆貧乏)→スカンピン,

とするものがある(日本語の語源)。それだと,

シッカイビンボウ→スッカリビンボウ→スカンビン→スカンヒン→スカンピン,

という感じであろうか。ただ,日本語源大辞典は,

「花札では配られた札によって役がつくが,最初に配られた七枚がすべてカス札であるとき,その役を皆素(からす)勘左衛門と呼ぶのである。この役は,赤・短一・十一(といち)とともに点が取りにくいため〈一文無し・スカンピン〉に近い意味で用いられる。(中略)これは『スカ(カス札)のピン』ということではあるまいか」

と,独自説を挙げている。是非を判断する材料はないが,まあ,

スッカリビンボウ→スカンビン→スカンヒン→スカンピン,

の転訛とみておくのが無難ではあるまいか。ただ,臆説だが,漢字の,

貧寒,

を逆転させて,「素」をつけた,

素寒貧,

というギャグ(自虐ネタ)だったのかもしれない,と不図思いついたのだが…。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:00| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする