2019年08月28日

あやかし


「あやかし」は,

日本における海上の妖怪や怪異の総称,

の意かと思っていたら,

海上に現れる妖怪,

とあり(広辞苑),特に,

船が難破する時に海上に現れる,

ともあり(デジタル大辞泉),

海上で死んだ者の魂が仲間をとるために現れる,

ともある(岩波古語辞典)。別に,

あやかり,
海幽霊,
敷幽霊,
船弁慶,

等々ともいうらしい。

「長崎県では海上に現れる怪火をこう呼び、山口県や佐賀県では船を沈める船幽霊をこう呼ぶ。西国の海では、海で死んだ者が仲間を捕えるために現れるものだという」

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%82%B7_(%E5%A6%96%E6%80%AA)

これが転じて,

あやしいもの,妖怪,

の意となったものらしい。また,

コバンザメの異称,

とあるのは,

「コバンザメが船底に貼り付くと船が動かなくなるとの俗信から、コバンザメもまたアヤカシの異称で呼ばれた」

ということ(仝上)によるものらしい。室町末期の日葡辞書には,

あほう,馬鹿者,

の意で載るらしい。これも意味の転化のひとつらしい。また,「あやかし」を,

怪士,

と当てると,能面の一つの呼称になる。

「怨念を持つ男の亡霊。霊的な力を持った神や妖怪。 目元に恨みが表現され、使用曲に幅がある」

とあり(http://www.noh-kyogen.com/encyclopedia/mask/ghost.html),使用曲目は,『船弁慶』『松虫』という。

SekienAyakashi.jpg

(鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』より「あやかし」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%82%B7_(%E5%A6%96%E6%80%AA)より)

鳥山石燕は,『今昔百鬼拾遺』で「あやかし」に,巨大な海蛇を描いている。これはイクチをアヤカシ(海の怪異)として描いたものとされている。

「イクチ」とは,日本に伝わる海の妖怪のことで,『譚海』(津村淙庵),『耳袋』(根岸鎮衛)などの江戸時代の随筆に記述がある。『譚海』によれば,

「常陸国(現・茨城県)の沖にいた怪魚とされ、船を見つけると接近し、船をまたいで通過してゆくが、体長が数キロメートルにも及ぶため、通過するのに12刻(3時間弱)もかかる。体表からは粘着質の油が染み出しており、船をまたぐ際にこの油を大量に船上にこぼして行くので、船乗りはこれを汲み取らないと船が沈没してしまうとある」

『耳袋』では,

「いくじの名で述べられており、西海から南海(近畿地方、九州)にかけて時折現れ、船の舳先などにかかるものとされている。ウナギのように非常に長いもので、船を通過するのに2,3日もかかるとあり、「いくじなき」という俗諺はこれが由来とされている。また同書では、ある人物が「豆州八丈(現・東京都八丈島)の海に、いくじの小さいものと思われるものがいるが、それは輪になるウナギ状のもので、目や口がなく動いているものなので、船の舳先へかかるものも、長く伸びて動くのではなく、丸くなって回るものだ」と語ったという」

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%81)。なお,「イクチ」を,

シーサーペントと同一のもの,

とする指摘もある(仝上)とか。「シーサーペント」は,

「海洋で目撃、あるいは体験される、細長く巨大な体を持つ未確認生物(UMA)の総称である。特定の生物を指すものではない。大海蛇(おおうみへび、だいかいじゃ)とも呼ばれる」

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%83%88。そう見ると,大蛇に見えなくもないが,大蛸であるまいか。鳥山石燕は,「あやかし」で,こう注記している。

「西国の海上に船のかかり居る時,ながきもの舟をこえて二三日もやまざる事あり。油の出る事おびただし。船人力をきはめて此油をくみほせば害なし。しからざれば船沈む。是あやかしのつきたるなり」

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石燕は,「あやかし」とは別に,「舟幽霊」「海座頭」を描いているので,「あやかし」とは別と見做していた。

大言海は,「あやかし」の語源を,

「古事記,『阿夜訶志古泥(アヤカシコネノ)神』(神代紀,『吾屋惶根(アヤカシコネノ)尊』)を,記傳に,咄嗟可畏(アヤカシコ)の義と解き,謡曲に,阿夜訶志の着く,云々とあり,此魚の船底に着くを,舟人最も畏るるに因りて,アナオソロシの意にて,アヤカシとは云ふとの説もあり。されど,神代語と後世と甚だしき懸隔あり。和訓栞アヤカシ,『俗に事実明白ならざるを,アヤカシなどと云へり』。さらば,不思議なる意より,妖怪の義とするか。されど,アヤカシの語原を知らず,或は,血をアヤカスと云ふ語に因みて,不詳の意に移りたるか,なお考ふべし」

というにとどめている。船底に着く「阿夜訶志」とは,「コバンザメ」を指すもののようである。「血をアヤカスという語から不詳の意に移った」という大言海説以外には,

動詞アヤカルと同義か(和訓栞),
アナオソロシの義(俚言集覧),
アヤフカシの約(言元梯),
アカシマの訛(石燕雑志),

等々あるが,「あやかし」の別名,

あやかり,

との関連で,「あやかる」が気になる。大言海は,「あやかる」に,

肖,

を当て,

「肖(あ)えかかるの約と云ふ(映ゆ,はやる。萎ゆ,なやむ)」

とし,

物に触れて似る,
他に感じて同じ姿となる,

意とする。「肖(あ)ゆ」の項で,

名義抄「肖,あえたり,にたり」

を載せる。「あやかし」の別名として「あやかり」があるのには意味がある。

あやかり→あやかし,

の転訛ではあるまいか。

参考文献;
鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』(角川ソフィア文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 04:00| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする