2019年09月04日
あくせく
「あくせく」は,
齷齪,
偓促,
と当てる。「齷齪」の訓み,
あくさく,
の転訛である。だから「齷齪」は,
あくさく,
あくそく,
そそくさ,
とも訓ませる。そのせいか,
あくせく 83.8%
あくそく 9.5%
あくさく 5.4%
そそくさ 1.4%
と,訓み方がわかれる(https://furigana.info/w/%E9%BD%B7%E9%BD%AA)。「あくせく」への転訛は,
「『あくさく』から『あくせく』の音変化は、『急く(せく)』からの類推と思われる」
とする説もある(語源由来辞典)。
心が狭く,小さなことにこだわること,
休む間もなくせかせかと仕事などをすること,
の意である。「齷」(アク)は,
「会意兼形声。『齒+印符屋(つまる,ふさがる)』。歯の間がせまくつまっていること」
とある(漢字源)。「つまってちいさいさま」の意である。「齪」(サク,セク)は,
「会意兼形声。『齒+音符足(=促 せかせかする,間が狭い)』」
とあり(仝上),せまい,せせこましい,という意味である。「齷齪」は,
歯の細かく密なる義,
↓
転じて,心が狭し,こせつく,
という意味が転じた(字源)とある。つまり,歯の間の狭いというだけの状態表現が,「こせこせ」「あくせく」と価値表現へと転じたことになる。さらに,
細かいことを気にして落ち着かないさま,
↓
目先のことにとらわれて,気持ちがせかせかする,
と,その価値表現の幅も広い。要は,
せっついている,
ということである。中国語では,さらに,
汚い,不潔な,
卑しい,卑怯な,
度量が狭い,
と,その貶め方がきわまるらしい(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%BD%B7%E9%BD%AA)。笑える国語辞典にも,
「現代中国語では、やはり『齷』も『齪』も『齷齪』にしか使わず、こちらは『汚れている、汚い』という意味で用いられているようである」
とある。
大言海は,「あくさく」の項に,
「六書故『人之曲(こまかに)謹者,曰齷齪』。集韻『齷齪,迫(せまる)也』。アクセクと訛りて,普通語となれるは昔教科書なりし,文選より出しならむ」
とある。文選には,
「小人自齷齪,安(いずくんぞ)知嚝士懐(おもひ)」(嚝士は,心嚝き人なり)
とあるとか(仝上)。
「齷齪」は,和語でいうと,
こせつく,
だが,これは,擬態語,
こせこせ,
から来ている。「こせこせ」は,
コ(小)セ(狭)の繰り返し(日本語源広辞典),
コセはコソ(小狭)の意(大言海),
らしく,鎌倉時代から見られる。
「意味は,…(どうでもよい細かなことにこだわったり,些細な事を必要以上に気にしたりするなど,気が小さく,考えや行動にゆとりや落ち着きが無い様子)。『栂尾明恵上人遺訓』に『こせこせと成ける者哉と』ある。この『こせ』をもとに鎌倉・室町時代には『こせがむ』『こせびる』『こせめく』など,細かなことにこだわる意の動詞が現れた。今日の『こすい』『こすっからい』のもとの形容詞である『こすし』も室町時代からみえる」
とある(擬音語・擬態語辞典)。
参考文献;
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95