2019年09月22日

あかねさす


「あかねさす」は,

茜さす,

と当てる。

茜色に照り映える意で,

「日」「昼」「照る」「君」「紫」などにかかる枕詞である(広辞苑)。

「東の空があかね色に映える意から昇る太陽を連想し,美しく輝くのをほめて」

かかる,とある(岩波古語辞典)。

大海人皇子が蒲生野で狩りをしたとき,額田王が詠んだ歌,

あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る

が例だが,確か母校の校歌に「あかねさす」のフレーズがあった。

大言海は,「あかねさす」について,

「アカは,明き義なり。ネには意なし。島ね,眉(まよ)ね,羽ねの如し(万葉集古義)。サスは,輝くなり,明気(あかき)映(さ)すの意。イアカネサシと云ふは,中止形なり。因りて,日,昼,照るにつづく。紫には,其色の匂ふにつづけ,君には,其顔のにほはしく色づけるにつづくるなり。紅顔の意にて,赤羅引く君と云ふが如しと云ふ」

とする。因みに,「赤羅引く」は,

「アカラは,アカラムの語幹。明根映(あかねさ)すと同意。明かく光る日とかかり,赤みの映(さ)す子(女子),君,(紅顔の意)膚とかかる」

とある(大言海)。大言海の説明を敷衍すると,厳密には,「あかねさす」は,

茜色に照り映える意から、「日」「昼」「照る」にかかる,

と,

紫(古代紫)は赤みを帯びていることから、「紫」にかかる,

と,

照り映えて美しいの意で、「君」にかかる,

とは,少し異なる。つまり,単純に,

茜色がさす,
赤く照り映える,

という状態表現が,枕詞に使われるとき,「日」「昼」「光」「朝日」等にかかる,

赤い色がさして光り輝く,

意から(「茜刺(あかねさす)日は照らせれどぬばたまの夜渡る月の隠らく惜しも」万葉集),さらに,紫色、蘇芳(すおう)色との色彩としての類似から,それぞれ同音の「紫草(むらさき)」および地名「周防(すおう)」にかかる(「茜草指(あかねさす)紫野行き標野(しめの)行き野守は見ずや君が袖振る」万葉集)。紫が赤みを帯びている意で、「紫」の枕詞とされているが、あるいは、

これも日に照って光り輝いている意から、「紫野」にかけたのではないか,

とも考えられる,とされる(精選版 日本国語大辞典)。そして,「君」にかけ,

顔が赤く照り輝いている,

意で(「飯(いひ)喫(は)めどうまくもあらず行き行けど安くもあらず赤根佐須(あかねサス)君が情し忘れかねつも」万葉集),

と,紅顔、紅頬(こうきょう)の意のほめことば(一説に、赤心、すなわち真心のある意でかかるという),あるいは,光り輝く意から、美しい君にかける,という価値表現へと転化している(仝上)。

なお,茜色(https://www.color-sample.com/colors/2/)は,濃い赤色系カラーで,「暗赤色」という別称もある。万葉名では

茜,
茜草,
赤根,
安可根,

等々という表記される。「茜」(セン)は,

「会意兼形声。『艸+音符西(日の落る方向,夕焼け色)』」

とあり,「あかね」の意である。

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「アカネの名は『赤根』の意で、その根を煮出した汁にはアリザリンが含まれている。その根は染料として草木染めが古くから行われており、茜染(あかねぞめ)と呼び、また、その色を茜色と呼ぶ。同じ赤系色の緋色もアカネを主材料とし、茜染の一種である。このほか黒い果実も染色に使用できる」

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%8D。古く『魏志倭人伝』にも「邪馬台国の卑弥呼が魏の皇帝から茜色の絹を送られた」という記述もある。しかし,この日本茜を使って鮮やかな赤色を染める技術は室町時代に一時途絶えた,らしい。

「日本アカネで染めた色は、外国産のアカネと比べて黄色みを帯びるのが特徴です。茜色は染色に工数がかかるため、江戸時代には蘇芳すおうで代用した似茜(にせあかね)が出回りました」

らしい(https://www.i-iro.com/dic/akane-iro)。途絶えた日本茜の茜色は,

「染色家の宮崎明子が1997年にかけて、延喜式や正倉院文書などを参考にして、日本茜ともろみを併用する古代の染色技法を再現した」

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%8Dが,現在では、アカネ色素の抽出には同属別種のセイヨウアカネ(西洋茜、R. tinctorum)が用いられることがほとんどである(仝上),という。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:41| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする