「裏を返す」は、
同じことをまたする、
意とあり(広辞苑)、特に、
同じ芸娼妓を二度目にきて買う、
意とある。いまやその意味は死語だが、遊里では、「裏を返す」は、
「客が初めて揚屋に入り遊女を指名して客になることを『初会』、客が初回の相手に会いに二度目に登楼することを『裏を返す』、三度目に会うのを『馴染み』といった。
とある(日本語源大辞典)。
「裏を返さないのは江戸っ子の恥」、
という言葉が残っているように、それが粋な遊び方だったらしい(https://sho.goroh.net/uraokaesu/)。
もっとも、「裏を返す」には、
裏側を塗る、
壁・板などを打ち抜いて抜けぬようにする、
意があり(岩波古語辞典)、これが本来の意ではないか、と思われる。
「一説に『裏壁を返す』の略で、左官の言い始めた語と」
とあり(江戸語大辞典)、
「『裏を返す』は『裏壁(返す)』の言い方もあり(浮世草子など)、『壁の表を塗った後にもう一度裏から塗直す』という左官の用語を語源と見る考え方が18世紀の随筆や草草紙に記されている」
とある(日本語源大辞典)ので、語原は左官用語みていい。
今日では、「裏を返す」は、
「裏を返せば」、
の形で、
逆の見方をすれば、
本当のことを言えば、
という意味で使われることが多い。
裏を返す→裏返る→裏返す、
といった転訛で、
裏を返して表とす、
つまり、
ひっくり返す、
意で使う。遊里の言葉は、「裏返す」の、
同じことをする、
意の転用と思われる。
裏壁かえす→同じ事を重ねてする→壁の上塗りをする、
と意味を転じたが、「裏壁返す」とは、
壁の表側を塗った後に裏側を塗り、木舞(こまい)からはみ出した壁土を裏側から塗り返す、
意である(精選版 日本国語大辞典)。「木舞(こまい)とは、
小舞、
とも当て、
土壁(つちかべ)の下地、
の意。
細く割った竹を、3~4cmくらいの間隔をあけて格子状に縄で組んだもの。
とある(家とインテリアの用語がわかる辞典)。昔の土壁をイメージすればよい。この意味が、
打った釘の先を打ち曲げる、
意にもなった。裏側から打ち曲げるからであろうか。
「うら」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/463821593.html)で触れたように。「うら」は,
裏,
と当てるが,
心,
とも当てる。そのことは,「うらなう(http://ppnetwork.seesaa.net/article/452962348.html)」で触れた。「うら(占)」は,
「事の心(うら)の意」
とする。「心(うら)」は,
「裏の義。外面にあらはれず,至り深き所,下心,心裏,心中の意」
とある。『岩波古語辞典』は,「うら」に,
裏,
心,
と当て,
「平安時代までは『うへ(表面)』の対。院政期以後,次第に『おもて』の対。表に伴って当然存在する見えない部分」
とある。とすると、「裏を返す」とは、
おもてになる、
意である。そうみると、なかなか意味深な言葉遣いではある。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:裏を返す