「海馬」は、
かいば、
と訓む。中国語である。字源には、
たつのおとしご、
にんぎょ、
の意味が載る。「にんぎょ」は、
儒艮(じゅごん)、
の意と載る。大言海も、
たつのおとしご、
せいうち、
と載せる。しかし、広辞苑には、
Sea-horseの訳、
として、
セイウチ、およびトドの別称、
タツノオトシゴの別称、
ジュゴンの誤称、
Hippocampus 脳の内部にある古い大脳皮質の部分。その形がギリシャ神話の神ポセイドンが乗る海の怪獣、海馬(ヒポカンポス)の下半身に似ているのでこの名がある、
と載る。脳の海馬の由来はここにあるが、精選版 日本国語大辞典は、「うみうま(海馬)」は、
たつのおとしご(龍落子)の異名(物類称呼(1775))、
海産の大きなカメ。うみぼうず。あおうみがめ(大和本草批正(1810頃))、
とし、「かいば(海馬)」を、
魚「たつのおとしご(龍落子)の異名(山槐記・治承二年(1178))、
セイウチ(海象」の異名(南島志(1719))、
大脳辺縁系で古皮質に属する部位、
と分け、脳の海馬は「断面の形がタツノオトシゴに似る」としている(時実利彦・脳の話)。これは、動植物名よみかた辞典によると、
海馬(アシカ) アシカ科の動物の総称、
海馬(ウミウマ) ヨウジウオ科の海水魚。タツノオトシゴの別称、
海馬(トド) アシカ科の海獣、
とあるので、「海馬」を、アシカと訓ませたりするのは、トドを含めたアシカ科の総称だから、ということになる。ただ、脳の「海馬」は、一般には、ヒポカンポスに似るとされるが、日本人からは、タツノオトシゴに似ていると見える、ものらしい。
(ウィリアム・アドルフ・ブグローの描いたヒッポカムポス https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%83%E3%83%9D%E3%82%AB%E3%83%A0%E3%83%9D%E3%82%B9より)
(海馬。図の左側が前頭葉、右側が後頭葉 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E9%A6%AC_(%E8%84%B3)より)
で、「海馬」は、
「かいば」「うみうま」と訓んで、タツノオトシゴ、
「かいば」と訓んで、セイウチ、
「かいば」「とど」と訓んで、トド、
「あしか」と訓んで、アシカ科(アシカ、オットセイ、トド等を含み、アザラシやセイウチ等を含まない)の総称。または、アシカ、
「かいば」と訓んで、ジュゴンの誤称、
「かいば」と訓んで、ヒッポカムポス - ギリシア神話に登場する半馬半魚の架空の生物、それに準えて脳の海馬、
と、読み分けられている。脳の「海馬」は別にすると、「海馬」は、
「ウマのような大きな海産動物の意。セイウチ(海象)、アシカ(海驢)、ジュゴン(儒艮)にも用いられるが、最近は胡櫞にかえてトドの漢名として定着しつつある。タツノオトシゴの異名でもある」
というのが落としどころらしい(日本大百科全書)。
ついでながら、「海」の付く生き物を挙げてみると、「海象」は、
せいうち、
かいぞう、
かいしょう、
と訓ませ、「セイウチ」のこと。「海豹(カイヒョウ)」は、
アザラシ、
と訓ませる。
水豹、
とも当てる。「海豚」(カイトン)は、
イルカ、
と訓ませる。イルカ(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465062520.html)については触れた。「海狸」(カイトン)は、
ウミダヌキ、
と訓ませ、ビーバーの別名。「海狗」(カイク)は、「おっとせい(膃肭臍)」の異名。「海獺」(カイタツ)は、
猟虎、
獺虎、
とも言い、ラッコだが、
うみうそ、
うみおそ、
ともいい、「アシカ」の異称でもある。「海星」は、
人手、
とも当て、「ヒトデ」と訓ませる。「海月」は、
水母、
とも当て、「クラゲ」と訓ませる。「アシカ」は、
海馬、
とも当てるが、
海驢、
葦鹿、
とも当てる。アイヌ語由来とある。「海胆」は、
ウニ、
と訓ませるが、
雲丹、
海栗、
とも当てる。「海扇」
ほたてがい、
と訓ませる。
帆立貝、
とも当てる。「海鷂魚」は、
鱏、
鱝、
鰩、
とも当て、「エイ」と訓ませる。「海鞘」は、
ほや、
と訓ませる。やれやれ、めんどくさい。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95