2019年11月13日

時雨


「時雨」は、

しぐれ、
じう、

と訓ます。

液雨(えきう)、
霂、

ともいう(大言海)。

秋の末から冬の初めころに降ったり病んだりする雨、

の意で使う。で、時雨が降る天候に変わることを、

時雨れる(しぐれる)

という(広辞苑)。この意が転じて、

(時雨に掛けて)さっと涙がこぼれる、

という使い方もする。しかし、「時雨」は、漢語としては、

ほどよいときに降るよき雨、

を意味し、禮記にも、

天降時雨、山川出雲、

とある。それが転じて、

時雨之化、

というように、

教化の普く及ぶをいう。草木の好雨を得て発生するに喩う、

意で使う、とある(字源)。「しぐれ」の意で使うのはわが国だけである。

和語「しぐれ」は、

志ぐれの雨の略、

とある(大言海)。その動詞「志ぐる」は、

「志は、風雨(シ)、クルは、暮る、時雨と書くは、時(しばしば)降る雨の意。時鳥(ほととぎす)の如し」

とする。同趣は、

祝詞などにある風の異称シナトノカゼ(シは風、ナは「の」の意の古い連体助詞、トは場所)等から古く風の意のシがあったとみられ、これとシグレのシを関連づける(暮らしのことば語源辞典)、
シは風の義、クレは狂ひの転か(音幻論=幸田露伴)、
シは風の義。クレは晩の義(和訓集説)、

がある。その他に、その暗くなる空模様から、

シバシクラキ(しばらくの間暗い)の義(日本釈名・滑稽雑誌所引和訓義解)、
シバシクラシ(荀昧)の義から(柴門和語類集)、
シバクラ(屡暗)の義(言元梯)、
シクレアメ(陰雨)の略(東雅)、
シグレ(気暗)の義(松屋筆記)、
頻昏の義(和訓栞)、
シキクレ(頻暮)の義(日本語原学=林甕臣)、
シキリニクラシの訓(関秘録)、
シゲククラム(茂暗)の義(志不可起)、
シゲクレ(繁昏)の義〈名言通〉、
シは添えた語。クレは、空がクラクなるところから(和訓栞(増補))、
シは水垂下の義。クレは雨、あるいは陰、あるいは暗晦の義という(箋注和名抄)、

等々あるが、どうも語呂合わせにすぎる。「しぐれ」は、

時雨(しぐれ)の雨、間(ま)なくな降りそ、紅(くれなゐ)に、にほへる山の、散らまく惜(を)しも
時待ちて、ふりし時雨の、雨止みぬ、明けむ朝(あした)か、山のもみたむ

と、万葉集にうたわれているように、古くからある言葉で、もっとシンプルなのではないか、と思う。たとえば、広辞苑、日本語源広辞典は、

「『過ぐる』から出た語で、通り雨の意」

とする。同趣は、

過ぎ行く雨であるところから、スグル(過)の転(語源をさぐる=新村出)、

もある。さらに、日本語の語源は、

「秋の末から冬の初めにかけて降ったり止んだり定めなく降る通り雨をスギフル(過ぎ降る)雨といった。ギフ[g(if)u]の縮約でスグル・シグル(時雨る、下二)になった〈けしきばかりうちシグレて〉(源氏 紅葉賀)。連用形の名詞化がシグレ(時雨)である。〈長月のシグレにぬれとほり〉(万葉)」

とする。

すぐる→しぐれ、

と転訛したとみるのが、自然ではないか。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:03| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする