2019年11月21日

点前


「手前」は、「手前味噌」http://ppnetwork.seesaa.net/article/471631451.html?1574193427で触れたように、

自分の手の前、
目の前、

の意で、そこから、目線で、

自分に近い方、
こちら、

あるいは、

自分の手元、

の意となり、

相手に対してこちらの立場、

の意となり、より近づいて、

自分の持ち物、
抱えている者、

の意となり、それをメタファに、

自分の腕前、
技倆、

の意となり、

家計、
暮らし向き、

の意としても使われる。茶道では、

点前、

と書いて、

茶道の所作、作法、

の意で使う。手元で、

茶を点(た)てるから、

点前、

というのかもしれないが、茶道では、お茶を点てることを、

点前(てまえ)

と呼び、

お茶を点てる道具を茶席に運び出して置きつけ、客の前で茶器、茶碗などを清め、茶碗をお湯で温め、そこへ抹茶を入れ、湯を注ぎ、茶筅でかき回す。点てた抹茶を客へ出す、最後に使った道具をもう一度、清めて、元の場所へ片付け、道具を持ち帰る、

という茶を点ずるための順序,手続、作法を、

点前、

と呼ぶ。もっともどの範囲を指すかは、素人にはわかりにくく、

茶道の作法のうち茶を点てたり,炉や風炉に炭を入れる所作(炉または風炉に炭を入れる所作は炭手前)、

という言い方(デジタル大辞泉)と、

茶の湯において茶を点(た)てたり、炭を置く行為、

という言い方がある(日本大百科全書)。運び入れ、運び出しは、入れないようであるが、準備と後片付けを入れないのは、茶道という限り、ちょっと納得しかねるのだが。

「点前」は、古くは、

手前、

と当てていたが、現在は、炭を置く行為である、

炭手前、

にのみ手前の字を使い、ほかはすべて点前の字をあてている。たとえば、

盆点前、
運び点前、
棚点前、
茶箱点前、

等々。「点」について、

「『小さな目印』という意味。つまり「少量のお茶を作る事」という意味で「点前」という漢字が使われるのです。
『点』という文字は『点眼』『点鼻』などにも使われますよね。どれもみんな『少量をさす』という意味があると思います」

という説明https://plaza.rakuten.co.jp/kaporinfukufuku/diary/200706080000/があったが、ちょっと疑わしい。

チャヲタツル、

という言い方が室町末期の日葡辞書に載る。

かき回して整える、

意とある(広辞苑)が、「立つ」http://ppnetwork.seesaa.net/archives/20140615-1.htmlで触れたように、「立つ」の語源は、

タテにする、
地上にタツ、

である。「たつ」の意味の、

抹茶を点てる様子.jpg

(抹茶を点てる様子 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8C%B6より)


上方へ向かう運動を起こさせて、目立たせる、
とか、
行為や現象の度合いを高めて、目立たせる、

といった含意の中、

薬を水に立てて、

という用例のように、

かき混ぜて、泡立たせる、

意である(この場合「点つ」と当てる)。「茶を点てる」とは、そのままの意ではないか。大言海も、

茶を立つとは、抹茶を湯にかきまづ、

としている。あるいは、日本語源広辞典の、

湯気をまっすぐ立ち昇らせる、

意とするのも、「たつ」の含意から見てあり得る。「点前」は、

「中国宋(そう)代の茶書『茶録』に『点茶』とあって、点前の語の初見となっている」

とあり(日本大百科全書)、炭手前の他は、流派によって違うが、

ふつうの点前を平(ひら)点前

といい、

薄茶(うすちゃ)点前

濃茶(こいちゃ)点前

とがある、とか。

竹台子総飾りを客付き(台子の正面に向かって右側)からみたもの.jpg

(竹台子総飾りを客付き(台子の正面に向かって右側)からみたもの https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B0%E5%AD%90より)


『南方録(なんぽうろく)』によると、茶の湯の点前が初めて行われたのは、

「将軍足利義教が後花園(ごはなぞの)天皇を招いて饗応したあと、寵臣赤松貞村(さだむら)が水干(すいかん)・折烏帽子(おりえぼし)姿で披露した台子(だいす)点前が最初であったということになっている。それは、天皇拝領の唐物(からもの)道具を使った台子による3種極真荘(ごくしんかざり)の点前であった。現存する『室町殿行幸御餝記(おかざりき)』(徳川美術館蔵)によると、永享(えいきょう)9年(1437)10月21日のことであって、二か所に茶湯所がしつらえられており、そこで点前が披露されたことになる。『海人藻屑(あまのもくず)』(1420)に「建盞(けんさん)ニ茶一服入テ、湯ヲ半計(なかばばかり)入テ、茶筅(ちゃせん)ニテタツル時、タダフサト湯ノキコユル様ニタツルナリ」とあるので、貞村の点前とはこうした点て方であったと考えることができる」

とある(仝上)。ちなみに、「台子・臺子」(だいす)は、

茶道の点前に用いる茶道具で、水指など他の茶道具を置くための棚物の一種。真台子・竹台子をはじめとして様々な種類がある、

とかhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B0%E5%AD%90。こののち、やがて、

「草庵(そうあん)茶の成立とともに炉(ろ)の点前が考案されていった。興福寺別当光明院の実堯(じつきょう)による『習見聴諺集(しゅうけんちょうげんしゅう)』に記載された『古伝書』(1604、05写)には、「いるり(囲炉裏(いろり))の立様之事」「薄茶之立様之事」があって、台子を使った風炉(ふろ)と炉の濃茶と薄茶の両様の点前が記述されている。その後、わび茶の大成するにつれて茶席の極小化が行われ、千利休(せんのりきゅう)による「一畳半の伝」といわれるような運び点前が成立し、点前の基本がすべて整ったのである」

とある(仝上)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
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書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:手前 点前
posted by Toshi at 05:05| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする