2019年12月08日

何れ菖蒲


「何れ菖蒲」は、

何れ菖蒲か杜若、
菖蒲と杜若、

とも言う。

いずれあやめかかきつばた、

とは、

どちらもすぐれていて、選択に迷うことのたとえ、

とされるが、この諺の出典は、平安時代末期に『源三位(げんざんみ)』と称された源頼政の、

五月雨に沢べのまこも水たえていずれあやめと引きぞわづらふ、

という歌に由来する。それは、

「頼政がぬえ退治の賞として菖蒲前(あやめのまえ)という美女を賜るとき、十二人の美女の中から見つけ出すようにいわれて詠んだとされる」

という『太平記』の話に基づく(故事ことわざ辞典)。

アヤメ.jpg



「あやめ」は、

菖蒲、

と当てる。「菖蒲」は、

ショウブ、

と訓ませると、「あやめ」は、

しょうぶの古称、

である。これは、あやめとは、葉の形が似るだけでまったくの別種(サトイモ科ショウブ属)。五月の節句に用いる「しょうぶ湯」の「ショウブ」。武芸の上達を願う「尚武」、戦に勝つ「勝武」に通じることかららしい。これは、

「晩秋から冬期にかけて地上部が枯れてから、採取した根茎のひげ根を除いて水洗いし、日干しにしたものが生薬の「ショウブコン(菖蒲根)」です。ショウブコンは特有の芳香があり、味は苦くやや風味がある精油を含みます。その水浸剤は皮膚真菌に対し有効であると言われています。また、採取後1年以上経過したものの煎剤は芳香性健胃薬、去痰、止瀉薬、腹痛、下痢、てんかんに用いられます」

とあるhttps://www.pharm.or.jp/flowers/post_7.htmlように、薬草で、

和名は同属のセキショウ(漢名・石菖)の音読みで、古く誤って菖蒲に当てられたらしい(仝上)。本来、「菖」(ショウ)は、

「会意兼形声。『艸+音符昌(ショウ あざやか、さかん)』で、勢いがさかんで、あざやかに花咲く植物」

の意で、「菖蒲」の意。「ショウブ」は、「白菖」という。「蒲」(漢音ホ、呉音ブ)は、

「会意兼形声。『艸+音符浦(みずぎわ、水際に迫る)』」

で、「がま」の意。「あやめ」は、だから、「ショウブ」の古称として、

文目草の義、

とし(大言海)、

「和歌に、あやめ草 文目(あやめ)も知らぬ、など、序として詠まる、葉に体縦理(たてすぢ)幷行せり。アヤメとのみ云ふは、下略なり」

とする。しかし、岩波古語辞典は、

菖蒲草、

と当て、

「漢女(あやめ)の姿のたおやかさに似る花の意。文目草の意と見るのは誤り」

とし、

「平安時代の歌では、『あやめも知らぬ』『あやなき身』の序詞として使われ、また、『刈り』と同音の『仮り』、『根』と同音を持つ『ねたし』などを導く」

とする。いずれとも決めがたいが、「ショウブ」の別名として、

「端午の節句の軒に並べることに因んだノキアヤメ(軒菖蒲)、古名のアヤメグサ(菖蒲草)、オニゼキショウ(鬼石菖)などがあります。(中略)中国名は白菖蒲といいます。」

とあるhttps://www.pharm.or.jp/flowers/post_7.htmlので、

菖蒲草、

と当てる方に与しておく。

ショウブの花.jpg

(ショウブの花 https://www.pharm.or.jp/flowers/post_7.htmlより)


同じ「菖蒲」を当てるためややこしいが、「あやめ」は、アヤメ科アヤメ属。「ショウブ」と区別するため、

はなあやめ、

と呼んだ。「あやめ」が、

はなあやめ、

の意と、

ショウブの古名、

の意と重なるため、どちらの語源を言っているのかが、曖昧になる。たとえば、「ショウブ」は、

「葉はハナショウブに似ており、左右から扁平で中央脈が高く、基部は左右に抱き合うように2列に並び、芳香がある」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%83%96
「葉にはアヤメのような扁平な剣状(単面葉)で、中央にはっきりした中肋(ちゅうろく)があります。」https://www.pharm.or.jp/flowers/post_7.html

という葉の特徴から、

葉脈に着目して、その文目の義(名言通・古今要覧稿・大言海)、
アヤベ(漢部)の輸入した草だからか(日本古語大辞典=松岡静雄)、
アヤメ(漢女)草の義(和訓栞)、

は、「ショウブ」(古名あやめ)を言っていると思われ、

アヤはあざやか、メは見える意。他の草より甚だうるわしく鮮やかに見える(日本釈名)、

は、どちらともとれる。「あやはあざやかなり、めはみゆるなり、たの草よりあざやかにみゆるなり」の記述からすると、花の意のようである。

菖蒲の冠をした女が蛇になったという天竺の伝説から、蛇の異名であるアヤメを花の意とする(古今集注)、
アハヤと思いめでる花の意から(本朝辞源=宇田甘冥)、

は、「はなあやめ」のことを言っているらしい。決め手はないが、しかし、

花弁の基部に筋目模様があることから、「文目(あやめ)」の意、

とされるのが自然なのではないか。

肥後系ハナショウブ.jpg


ハナショウブ.jpg



日本語の語源は、例によって、

「紫または白色の上品な様子をアデヤカナルミエ(貴やかなる見え)といった。見え[m(i)e]が縮約されてアヤメになった」

とするのは、いかがなものだろう。

さらにややこしいのは、

はなしょうぶ(花菖蒲)、

と呼ばれている、水辺に咲く植物。これも、アヤメ科アヤメ属。「ハナショウブ(花菖蒲)」は、

葉が菖蒲に似ていて花を咲かせるから、

そう呼ぶ。アヤメ類の総称としてハナショウブをアヤメと呼ぶことも多いのも、アヤメ科アヤメ属だからまちがいではないものの、輪をかけてややこしい。ハナショウブは、

ノハナショウブ、

の園芸種で、花の色は、白、桃、紫、青、黄など多数あり、絞りや覆輪などとの組み合わせを含めると5,000種類あるといわれている。

その系統を大別するとhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%8A%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%83%96

品種数が豊富な江戸系、
室内鑑賞向きに発展してきた伊勢系と肥後系、
原種の特徴を強く残す長井古種、

の4系統に分類でき、他にも海外、特にアメリカでも育種が進んでいる外国系がある(仝上)、とか。

「カキツバタ」は、

燕子花、
杜若、

と当て、やはりアヤメ科アヤメ属である。借りた漢字、「燕子花」はキンポウゲ科ヒエンソウ属、「杜若」はツユクサ科のヤブミョウガを指す。ヤブミョウガは漢名(「とじゃく」と読む)であったが、カキツバタと混同されたものらしい(仝上、語源由来辞典、日本語源大辞典)。

ふるく奈良時代は、

かきつはた、

と清音であった、とされる(岩波古語辞典)

「カキツバタ」は、

書付花(掻付花 かきつけばな)の変化したもので、昔は、その汁で布を染めたところからいう、

とするのが通説らしい。「汁を布に下書きするのに使った」(日本語源広辞典)ところからきているが、「音変化が考えにくい」(語源由来辞典、日本語源大辞典)と異論もあるが。

カキツバタ.jpg



万葉集は、

垣津幡、

と当てている。

垣下に咲く花(東雅)、
カキツバタ(垣端)の義(本朝辞源=宇田甘冥)、

も的外れではないかもしれない。

「カキツバタ」は、江戸時代の前半にはすでに多くの品種が成立していたが、江戸時代後半にはハナショウブが非常に発展して、カキツバタはあまり注目されなくなったらしいhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%AD%E3%83%84%E3%83%90%E3%82%BF

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:29| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする