2019年12月19日

へなちょこ


「へなちょこ」は、

埴猪口、

と当てたりする。

未熟なもの、取るに足らないものをあざけって言う語、

とある。いくつか説がある。

ヘンナオトコ(変な男)はヘナチョコとなり、未熟者をあざけっていう(日本語の語源)、
弱小な様をいう語で、ヘナはヘナヘナ、チョコはチョコリの意(上方語源辞典=前田勇)、
「へな」とは「埴土(へなつち)」(粘土を多く含んだ土で、壁などを塗るのに使われる)のこと。「へなちょこ」とは、へなつちで作った猪口、つまり出来の悪い猪口(デジタル大辞泉)。
ヘナチョコ(埴猪口)の義、明治十四五年の頃、山田風外、野崎左文等四五人、神田明神の境内なる開花樓にて酒宴す。其席にて使用せる盃は、内部に於多福、外部に鬼面の楽焼にて、面白ぎものなりき。これは酒を入るれば、ジウジウと音して、酒を吸ひ、ブクブク泡立つ土製の猪口なり。衆呼びてヘナ猪口と云ひしとぞ(大言海)、

等々。ふつうに意味から考えれば、「へな」は、

へなへな、

が思い浮かび、「ちょこ」は、

猪口才、

の「猪口」が思い当たる。ちょこざいhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/422842891.htmlで触れたように、猪口才の語源は、

「ちょこっとした(少ない・軽少な)+才能」

「ちょこ(猪口)+才(才能)」

の二説があるが、「ちょこ」は、「ちょこちょこ」とか「ちょこまか」とか「ちょこっと」といったときに使う、「ちょこ」であり、つまりは、小さいを意味する。

小才、

は、まだ気が利くが、

小利口、

はちょっと、気に障る。

猪口才、

は、もっと目障りになる、という感じであろうか。それに「へなへな」の「へな」がついて、

小才の役に立たなさ、

を言っている、ともとれる。あるいは、おっちょこちょいhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/445524884.htmlで触れた、「ちょこまか」の「ちょこ」としても、「すこし」「ちいさい」意である。

しかし、「埴猪口」は自分の造語だという人がいる。明治時代の新聞記者で狂歌師でもあった、

野崎左文(のざきさぶん)、

である。野崎左文『私の見た明治文壇』「昔の銀座と新橋芸者」に、

「其頃新橋ではいろいろな流行語があつた、挟み言葉やツの字言葉も用ひられ『アラよござい』『シンだねへ』『十銭頂戴』其外いくらもあつたやうだが今急には思ひ出されぬ、今日でも用ひられて居る唯の事を『ロハ』一円を『円助』半円を『半助』秘密を発く事を『スツパヌキ』劣等又は粗悪を意味する『ヘナチヨコ』などは盛んに唱へられたものだが、此ヘナチヨコといふのは実は私共の作つた新語で、それは明治十三四年の夏風雅新誌の山田風外翁と私等四五人が同年神田明神に開業した今の開花楼に登つて一酌を催した時、銘々の膳に附けて出した盃は内部がお多福、外部が鬼の面で、その鬼の角と顎とが糸底代りになつて居る楽焼風の気取つたものであつた、是は面白い盃だ先づ一杯を試みやうと女中に酒を注がせると、こは如何にジウジウと音がしてブクブクと泡が立ち酒が盃の中に吸込まれた、イヤ是れは見掛けに寄らぬ劣等な品物だ、ヘナ土製の猪口だから以来ヘナチヨコと呼ぶべしだと呵々大笑したのが始まりで、爾来外見ばかり立派で実質の之に伴はないものを総てヘナチヨと称して居たのが忽ち新橋の花柳界に伝はり終に一般の流行言葉となつたのである」

とあるhttp://www.kikuchi2.com/mzasshi/hena.html、という。また、同氏の「ヘナチヨコの由来」では、

「(『集古』の)前号の『猪尾助の由来』といふ記事を読んでふと思ひ出した儘茲にヘナチヨコの由来を白状する、それは明治十四五年の夏の事で当時風雅新誌の社主であつた山田風外氏とおのれ等四五人で同年神田明神に開業した今の開花楼に登つて一酌を催した、其時銘々の膳に附けて出した盃は内部がお多福外側が鬼の面になつて居る楽焼風の気取つたものであつた、是れは面白い盃だ先づ一杯を試みやうと女中に酒を注がせるとこは如何にジウジウと音がしてブクブクと泡が立つた、イヤ是れは見掛によらぬ劣等な品物だヘナ土製の猪口だからヘナチヨコと呼ぶべしだと呵々大笑したのが抑もの始まりで、それから以後外見ばかり立派で実質の之に伴はぬものを総てヘナチヨと呼びヘナチヨコ料理屋、ヘナチヨコ芸者、ヘナチヨコ芝居などゝ盛んに此の新語を用ひたのが忽ち新橋の花柳界に伝はり又落語家円遊などが高座で饒舌るやうになつた為め終に東京一般の流行言葉となつたのである、云々」

と述べる(仝上)、という。

文脈から見れば、

ヘナ土製の猪口だからヘナチヨコ、

と呼ぶ、としたのだが、この背景には、「へなへな」の「へな」という言葉を、意識して掛けたかどうかは別として、同座の面々に意識されていたことは確かなのではないか、という気がする。でなければ、

へな土製だからへな猪口、

では当たり前すぎて、

呵々大笑、

とはなるまい。

「へなへな」は、

力を加えると曲がったりしなったりして弱弱しい様子、
頼り甲斐なく弱弱しい様子、

という意味で、江戸時代から見られる(擬音語・擬態語辞典)。

鮪売り根津へへなへなかつぎ込み(誹風柳多留)、

という句もある。この言葉の含意があってこそ、

へなちょこ、

は駄洒落となったのではあるまいか。とすると、「へなちょこ」は、

へな土製の猪口、

という意味で尽きるようだ。

猪口.jpg


参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:24| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする