2019年12月29日

つとに


「つとに」は、

夙に、

と当てる。「夙」(漢音シュク、呉音スク)は、

「会意。もと『月+両手で働くしるし』で、月の出る夜も急いで夜なべをすることを示す」

とあり、「粛」と同系で、緊張して手早く働くこと、また、速と同系で早いの意ともあり、「むかしから」「早くから」という意と、「朝早く」という意(夜と対)と、「はやい」「時間が早い」の意とがある。つまり、

以前から、

という意と、

朝早く、

という意と、

(時間が)早い、

という意と、微妙な違いがある。「夙」を当てた和語「つとに」も、

朝早く、早朝、
と。
以前から、

の二つの意がある(広辞苑)。しかし、岩波古語辞典は、

朝早く、

の意しか載せない。辞典を見ると、

朝早く、早朝に、

の意の用例は、

「一には早(ツトニ)聚落に入ること得じ」(四分律行事鈔平安初期点)、
「つとに起き、遅く臥 (ふ) して」〈雨月物語・吉備津の釜〉、
「つとに行く雁の鳴く音(ね)は我がごとく物思へかも声の悲しき」(万葉集)、

等々であり(精選版日本国語大辞典、大辞林、デジタル大辞泉)、万葉集は、「朝」に「つと」と訓をしたりする。

早くから、ずっと以前から、

の意の用例は、

「人夙(ツト)に事業に志を立つべし」(中村正直訳・西国立志編)

と、明治以後である。これだけで即断するのは、難があるが、

早くから、

の意は、後世になって加わった意味ではなかろうか。

岩波古語辞典は、「つとに」の語源を、

「ツトはツトメテ(朝)・ツトメ(勤)のツト。朝早い意」

としている。岩波古語辞典は、「つとめ」(勤め・務め)について、

「ツトニ(夙)のツトと同根。早朝から事を行う意」

とし、「つとめて」については、

「ツトは夙の意。早朝の意から翌朝の意となった」

としている。「あした」http://ppnetwork.seesaa.net/article/447333561.htmlで触れたように、

「上代には昼を中心とした時間の言い方と、夜を中心にした時間の言い方とがあり、アシタは夜を中心にした時間区分のユフベ→ヨヒ→ヨナカ→アカツキ→アシタの最後の部分の名。昼の時間区分の最初の名であるアサと同じ実際上は時間を指した。ただ『夜が明けて』という気持ちが常についている点でアサと相違する。夜が中心であるから、夜中に何か事があっての明けの朝という意に多く使う。従ってアルクアシタ(翌朝)ということが多く、そこから中世以後に、アシタは明日の意味へと変化しはじめた。」

「あした」が早朝の意からあくる朝の意となったのと重なっている。

大言海は、

「初時(ハット)にの略、字鏡に『暾、日初出時也』」

としている。同趣旨である。

字類抄にも、

「夙、つと、つとめて、早旦也」

とある。日本語源広辞典は、

ツト(早朝)+に(副詞化)、

とする。他に、

ツトはツトメテの義(和句解・日本釈名)、
ツトはツトメ(勤)の略(万葉集類林・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子・日本語源=賀茂百樹)、
ツトはハツトキ(初時)の上下略(和訓栞言葉の根しらべの=鈴木潔子)、
ツトは日出の意の韓語ツタと同語(日本古語大辞典=松岡静雄)、

等々、「つとに」がもともと、

早朝、

の意しかなかったことを思わせる。

夙に、

と当てることで、「夙」の持つ意味をもたせたとみるのが妥当のようである。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:夙に つとに
posted by Toshi at 05:30| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする