2020年03月23日

なます


「なます」は、

膾、
鱠、

と当てる。「膾」(漢音カイ、呉音ケ)は、

会意兼形声。會とは「あわせるしるし+増の略体」の会意文字で、あわせて増やす意を含む。膾は「肉+音符會(カイ)」。會(会)と同系の言葉で、赤や白の肉を細く切り、それを彩りよく取り合わせた刺身、

の意であり、「さしみ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/453881536.htmlで触れたように、「刺身」は、

「指身・指味・差味・刺躬また魚軒とも書く。生魚の肉を細かく切ったものを古くは鱠(なます)とよんでいた」

のである(たべもの語源辞典)。倭名抄には、

鱠、奈萬須、細切肉也、

とある。

「膾」は、「生肉」で、「鱠」は、「魚肉」、

漢字の「膾」は、肉を細かく刻んであわせた刺身を表す字なので、「月(肉)」が用いられている。その後魚肉使うようになり、魚偏の「鱠」が用いられるようになった、

ということである(語源由来辞典)。万葉集に、

我れは死ぬべし大君に我れは仕(つか)へむ我が角は御笠(みかさ)のはやし我が耳は御墨(みすみ)の坩(つぼ)我が目らは真澄の鏡我が爪はみ弓の弓弭(ゆはず)我が毛らは御筆はやし我が皮は御箱の皮に我が肉(しし)は御膾(みなます)はやし我が肝も御膾(みなます)はやし我が眩(みげ)は御塩(みしお)のはやし老いたる奴(やつこ)我が身一つに七重(ななへ)花咲く八重(やへ)花咲くと、

と長歌(乞食者の詠)がありhttps://blog.goo.ne.jp/taketorinooyaji/e/21e888f916a3b5e3bb97772b67e3a1b6、「みなますはやし」は、

御鱠料、

と当て、

魚介や動物の肉を薄く切り、塩でしめて食す料理、

を意味する。上記歌は、鹿の立場から「わが肉は御鱠はやしわが肝も御鱠はやし」と詠い、

鹿の様々な部位が天皇のために利用されることを喜び「大君にわれは仕へむ」と詠んでいて、禽獣にも奉仕される天皇を言祝ぐ内容となっている、

とあるhttp://k-amc.kokugakuin.ac.jp/DM/detail.do?class_name=col_dsg&data_id=68905。「乞食者の詠」の「乞食者」とは、

寿詞を唱えて食物を請う芸能集団であるが、この歌は、宮中への鹿肉献上の際に詠われたかといわれる、

とある(仝上)。

今日、わが国で「なます」は、

大根・人参などを細かく切って酢で和えた食べ物、

を指すが、わが国だけの使い方のようである。広辞苑に、

魚貝や獣などの生肉を細かく切ったもの、
薄く切った魚貝を酢に浸した食品、
大根・人参を細かく刻み、三杯酢・胡麻酢・味噌酢などで和えた料理、

の意味が載るのは、わが国での「なます」の意味の変遷である。

野菜や果物だけで作ったものは「精進なます」と呼ばれ、魚介類を入れないことや、本来の漢字が「膾」であることから、「精進膾」と表記される、

とある(語源由来辞典)のは、「膾」の本来の意味から区別のためと思われる。初めは、

魚貝や獣などの生肉を細かく切ったもの、

で、日本書紀・景行紀に、

白蛤(うむぎ)為膾而進之、

とあり、やがて魚の「なます」が多くつくられるようになり、

鱠、

が多く用いられるようになり、室町時代の「下学集」には、

膾は魚を調すること、

とある。さらに、

平安時代後期に魚肉と野菜を細かく刻んであえた物を指す言葉に変わり、日本独自の発展を遂げていきます、

とありhttps://gurusuguri.com/special/season/osechi/spcu-1511_06/?__ngt__=TT106662437005ac1e4ae86fHWmjI-luNTto7lmsW0WpJQ、その頃のなますは、煎り酒という日本酒に鰹節や梅干しを加えて煮詰めた調味料を用いて作られていた、(仝上)とある。

江戸時代まで「膾」は膳におけるメインディッシュとしての扱いを受けており、膳の中央より向こう側に置かれることから「向付」(むこうづけ)と呼ばれるようになった、

ともある(仝上)。これは、

なますが元々は魚肉を使用して作られていたことが背景にあるため、

だったからといわれるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%86%BE。長く「鱠」と当てたが、

精進なます、

のときには、

膾、

の字を用いるようになった(たべもの語源辞典)、ともある。

紅白なます.jpg

(紅白なます https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%86%BEより)


大言海は、

生切(なますき)の略か、

とするが、これまでの経緯をみると、

肉は「しし」とよむ。生肉を細かに切ったものが、なますなので、ナマシシとよんだ。生肉をナマシシ(生宍、宍(しし)肉の古字)ともいった。このナマシシがナマスになった、

とする(たべもの語源辞典)が妥当に思われる。

ナマシ(生肉)の転呼(日本古語大辞典=松岡静雄)、
ナマは生、スはシ(肉)の転(小学館古語大辞典)、

も同趣である。

ナマス(生酢)の義(日本語源広辞典・東雅・和語私臆鈔・和訓栞)、

という説は、

酢を用いるようになったのは室町時代である。鱠の字は平安時代から盛んに用いられており、後付けということになる。

「それにしても、「なます」をめぐる諺は多い。たとえば、

羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く、
人口に膾炙(かいしゃ)する、
膾に斬る、
膾に叩く、

等々。

なお、「あつもの」については、「羊羹」http://ppnetwork.seesaa.net/article/472187601.htmlで触れた。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:29| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする