2020年04月03日


「粥」は、

糜、

とも当てる。「粥」(シュク、シク)は、

会意。原字は鬻で、粥は祖の略体。「弓二つ(かこう姿)+米+鬲(煮なべ)」。米をなべにいれて、こぼれないようにかこって(容器に蓋をして)熟するまで米を煮ることをあらわす、

とある(漢字源)。「水をたくさん入れて米を軟らかく煮た」おかゆの意である。「糜」(漢音ビ、呉音ミ)は、

会意兼形声。「米+音符磨(マ 粉々につぶす)」の略体」、

とあり、やはり「おかゆ」の意である。

粥.jpg


「粥」は、

米を鍋で炊いたもの、

で、

食湯(かゆ)、

ともいった(たべもの語源辞典)。

固(堅)粥(かたかゆ)と汁粥(しるかゆ)の総称、特に汁粥、

の意とある(広辞苑)。固粥は、今日の飯の意である(たべもの語源辞典)。これに対して、

強飯(こわめし/こわいひ)、

というのは、

米を甑(こしき)で蒸したもの、

を指す(岩波古語辞典)。「甑(こしき)」は、

米などを蒸すのに使う器、瓦製で丸く、其処に蒸気を通ずる穴がある。のちに、蒸籠にあたる、

とある(広辞苑)。播磨風土記に、

阜(おか)の形も甑・箕・竈どもに似たり、

とある(仝上)、とある。

江戸時代までは米を蒸して飯にしたものを強飯といい、水を加えて柔らかく煮たもの、すなわち炊(かし)ぎ飯を弱飯(ひめ)または姫飯(ひめいい)といっていた。炊飯が一般化するようになってからは、これをご飯(はん)または飯(めし)といい、反対に糯米(もちごめ)を蒸したものを強飯またはおこわというようになった。米を蒸すのが通常の加熱法であった時代には、糯米でも粳米(うるちまい)でも強飯といったが、炊く方法が一般的になってからは蒸したものだけを強飯というようになり、さらに糯米を蒸さずに炊いたものを炊きおこわといっている。

とある(日本大百科全書)。つまり、「姫飯」は、「固粥」、現在の普通の飯になる。蒸したる強飯に対して、姫飯といったものである。

ただ、汁粥・固粥、姫粥・強糜、は、少しずつ時代によって微妙に異なる使われ方をしている。

弥生時代、米を栽培し始めるが、この時は、

脱穀後の米の調理は、…玄米のママに食用にした。それも粥にしてすすったのではないかと想像される。弥生式土器には小鉢・碗・杯(皿)があるし、登呂からは木匙が発見されている、

とある(日本食生活史)。七草粥は、この頃の古制を伝えている(仝上)、とみられる。

弥生時代の終わりになると、甑(こしき)が用いられる。

3世紀から4世紀にかけて朝鮮半島を伝い、日本にも伝来した、

と見られhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%91

甕(かめ)に似た器の底に1つ、あるいは2つ以上の穴をあけ、これを湯沸しの上に重ね、穴を通って上る湯気によって穀物を蒸す仕組みとなっているもの。弥生時代以来使われるようになり,平安時代以降は木製の桶や曲げ物の甑が普通となって,江戸時代からのせいろうに引継がれた、

とある(ブリタニカ国際大百科事典)。

内に麻布のような粗織の布をしき、洗った米を入れてかたく蓋をし、湯をたぎらせた壺に重ねて仕掛ける。下から火をたくと、壺の湯はさかんに湯気をあげ、湯気は甕底の穴をとおって米を蒸す、

のである(日本食生活史)。奈良時代になると、正倉院文書に、

粥・饘(かたがゆ)、

の文字がみられる、という(日本食生活史)。「饘」は、

甑で蒸したもので、強いので強飯(こわいい)とよんだ…。(中略)単に飯(いい)という場合は強飯をいうのであるが、まれには固粥をさすこともあった、

とある(仝上)。しかし、

蒸さないで煮たものが粥である。庶民の日常食は粥の場合が多かったのであろう。これには、汁粥(しるがゆ)と固粥(かたがゆ)の二つがあり、汁粥は水気が多く、後世でいう粥にあたる水気の少ないのが固粥である。粥には米・赤小豆・粟・そば・いも・大根などを材料にし、それぞれ白粥・赤小豆粥とよばれた、

という(仝上)。

平安時代になると、土器から陶器で米が煮るようになり、これを、

粥、

といい、今日の粥は、

湯(ゆ)、

と呼ばれた、とある(たべもの語源辞典)。平安後期の「江家(ごうけ)次第」には、

固粥は高く盛られて箸を立てることが見えている。固粥は姫飯ともいわれ、後世の飯(いい)であると思われる。飯や粥には米だけのものではなく、粟飯(あわい)・黍飯(きびい)もあった。貴族は汁粥を多く食べていたようであるが、平安末期になると正規の食事でも固粥(飯)を用いた、

とある(日本食生活史)。固粥よりも、水の量が多く、柔らかく炊いたものが、

粥、

で、後世の粥に当たる。

粥には白粥・いも粥・栗粥などがある。白粥は米だけで何も入れてない粥である。いも粥はやまいもを薄く切って米とともに炊き、時に甘葛煎(あまかずら)を入れてたくこともある。大饗(おおあえ)のときにそなえて貴族の食べるものである。小豆粥は米に小豆を入れ塩を加えて煮たもの。栗を入れてたいたものが栗粥である。さらに魚・貝・海藻などを入れて炊く粥もあった、

とある(仝上)。鎌倉時代は、平安時代を受け継ぎ、蒸した強飯が多かったようである。

米を精白して使うことは公家階級のわずかな人々の間に行われた程度であった。それも今日の半白米ぐらいである。玄米食は武家や庶民の間に用いられ、一般的であった。今日の飯と粥に当たる姫飯(固粥)と水粥(汁粥)とは僧侶が用い…たが、鎌倉末期になり、禅宗の食風がひろまると強飯は少なくなり強飯は少なくなり、…今日の習慣にように姫飯を常食とする傾向になった、

とある(仝上)。鉄製の鍋釜ができるのは、室町以降だが、ようやく、

固粥を飯と言い、汁粥を粥、

というようになる(たべもの語源辞典)。だから、

強飯に湯や水をつけて食べる湯飯(湯漬)、水飯(水漬)も用いられる、

ようになる(日本食生活史)。湯飯は、今日の、

茶漬飯、

に近いものであり、饗応の際に用いられた。姫飯を前もって洗って椀にもって本膳に出し、二の膳に出された湯をそれにかけて食べたものである、

とある(仝上)。江戸時代になると、粥はかえって贅沢な、

茶粥、

が用いられるようになる。京・大阪では、

「富豪の家にても朝は新たに茶粥を焚いて食ふと言ふ。味噌汁を食ふことは中食のこととす。此故に土地のものは朝飯を炊き、汁を煮ることを聞いて笑ふもの多し」(浪花の風)というふうでかえって朝飯をたくことを冷笑していた。また江戸から京都へ遊んだものは、この茶粥は倹約のために食べるものだと考えることもあった。たとえば元治元年の石川明徳著の「京都土産」には「粥を食すれば米は過半し益あり」と述べている。だが淀屋辰五郎の好みの食物は茶粥であって、米は摂津米の上等、茶は宇治の上等の煎茶、奈良特製の奈良漬をそえたものであった、

とある(仝上)。

どうやら、粥は、最後は嗜好品にまで格上げされたらしい。

さて、「かゆ」の語源である。日本語源広辞典は、二説挙げる。

説1は、「カ(食)+ユ(ゆるやか)」で、水を多く入れて軟らかく煮た意、
説2は、「カ(加)+ユ(湯)」で、湯を加えた食物の意、重湯、固湯、葛湯などに対する言葉、

しかし、「粥」自体が「食湯」「湯」と呼ばれていたこと、また重湯、固湯、葛湯などに対する言葉、ということは、これが語源ではないことを示す。粥は、湯を加えたものではない、それでは湯漬け、である。説2はいかがであろうか。

大言海は、

食湯(けゆ)の転か、濃湯(こゆ)の転訛か、

とする。この他に、

カシギユ(炊湯)の転(和句解・日本釈名・名言通・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子・音幻論=幸田露伴)、

もある。しかし、「粥」の歴史を見れば、米の調理法の流れの中で、強飯・姫飯、固粥・汁粥、と他の調理法との対比の中で、意味を少しずつずらしながら今日に至っている。そういう背景抜きで、単独で考えるのは意味がないと思う。その意味で、たべもの語源辞典の説明が説得力がある。

カユは、ケユ(食湯)カ、コユ(濃湯)などからカユと変わったという説がある。また、加湯ともいう。炊湯(かしゆ)であるとか、炊き湯・かしぐ湯ともいう。堅湯が姫湯とよばれ、それが飯といわれて、汁湯が粥となり、飯と粥になる。粥は湯(ゆ)のことだが、飯が「いい」「めし」とよばれ、この飯を炊く水の量を多くして炊いたものが粥である。水を多く加えた意味と「炊いた」つまり「かしいた」という意味と両方を含んで、湯(ゆ)に「か」音を添えて「かゆ」とよんだのは、「いい」とか「めし」に対する呼び方として、「ゆ」よりも「かゆ」のほうがよかったからである。もともとカユはユだけで通用したものであった。

なお、「あずき粥」http://ppnetwork.seesaa.net/article/473475996.htmlについては触れた。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
渡辺実『日本食生活史』(吉川弘文館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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