2020年05月02日


「齣」は、

コマ、

と訓む。「齣」(漢音シュツ、呉音スチ)は(字源は、シャクと訓ませる)、

会意文字。「齒(並んだもの)+句(くぎれ)」

とある(漢字源)。「齒」(シ)は、

会意兼形声。古くは、口の中の歯を描いた象形文字。のち、これに音符の止を加えた。「前齒の形+音符止(とめる)」。物を噛みとめる前歯、

である。「句」(ク)は、

会意文字。「乚型+Ꞁ型+口」。かぎ形で小さく囲ったことば、つまり、一区切りの文句を示す。区切りの区(狭い枠)と縁の近い言葉、

である(仝上)。で、中国語「齣」は、

戯曲や芝居の場面を数える言葉、

の意である。ただ、和語では、「齣」を、

セキ、

とも訓ませたり(デジタル大辞泉)、

セツ、

と訓ませたり(大言海)する。大辞林は、

セキ、
セツ、

の両方を載せる。中国語「齣」の字音の訛りである。さらには、「齣」を、

クサリ、

と訓ませると、

一齣(ひとくさり 一闋とも当てる)、

は、

音曲・遊芸・公団・物語などの段落、

つまり、

一つの区切り、

の意で使う。中国語「齣」の意味を広げているのである。

一齣、

は、

イック、
イッセキ、

とも訓ます。通常、

ヒトコマ、

と訓むが、もともと、中国語の、

一齣、

という言い方は、

一幕、
一場、

と同義である(漢字源)。ただ、日本語では、

幕、
場、
場面、
シーン、
カット、

を、次のように使い分けているらしい(小学館・類語例解辞典)。

「幕」「場」は、

一つの劇の中での場面による区切り。幕が開いてから閉じるまでを一つの「幕」とする。その「幕」の中で、同一の場面で演じられる部分を一つの「場」と呼ぶ、

「シーン」は、

「ほほえましいシーン」のように、情景、光景の意でも用いられる、

「カット」は、

映画などの撮影で、いったん写し始めてから写し終わるまでの一場面、

「場面」は、

「場」「シーン」「カット」に比べ、最も一般的な使い方をする。一シーン、一カット、一場、一幕は場面に置き換えられるという意味だろうか。

さて、中国語「齣」を、

セツ、
セキ、

と訓むのは、字音の転訛でいいと思うが、「齣」を当てた、

クサリ、

は、

鎖の義、

とある(大言海)。「鎖(くさり)」は、

部分部分がつながりあって一続きのものとなる、

意味では、「一齣」と意味が重なる。

コマ、

は、

「小間(こま)」の意か、

とある(広辞苑)。

クマ(区切り)の音韻変化、

とする(日本語源広辞典)説がいいように思うが、「クマ」はどの辞書にも載らないので確かめようがない。

「齣(こま)」の意味は、中国語の「齣」に倣うが、

(写真用語)ロールフィルム・映画フィルムの一画面(一秒に24齣)、
転じて、ある場面、局面、
授業・講義などの時間割、

とある(広辞苑)。これが正しいとすると、「齣」に「こま」と当てたのは比較的新しい時期、ということになる。

江戸時代は、

小説や戯曲の区切り・段落、節、章、

の意味で、

セツ、
ないし、
セキ、

と、漢字の字音を訛った言い方をしていたらしい(デジタル大辞泉)のである。たとえば、人情本・春色梅児誉美(1832‐33)には、

「そは第二十四齣(セキ)にいたりて満尾の段」

とある。

写真フィルム.jpg


また漫画で、

四コマ漫画、
一コマ漫画

というのは、映画のコマ割りに準えたものだと考えられる。そう考えると、「コマ」は、

小間、

のもつ、

小さな部屋、

の意ではなく、

合間小間(あいまこま 合間を強めて言う)、

という言い方をする(広辞苑)、

短い時間。ちょっとの間、

という意味なら、

一コマ、

の「コマ」はあり得るのかもしれない。たとえば、映画フィルムでは、1秒あたりサイレント時代は16コマ、トーキーでは24コマが使われているが、その1枚の映像を記録する一区画(英語ではフレームというらしい)を指しているのだとすると、

短い時間、

というのは、なかなか意味深に見える。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:42| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする