2020年05月09日

しどろもどろ


「しどろもどろ」は、

甚だしく乱れ、もつれたさま、

の意で、

中納言しどろに酔ひて、

というような使い方(宇津保物語)をする。しかし、今日だと、

問い詰められて、シドロモドロになる、

というように、

話し方などが、筋が通らず、あっちにつかえ、こっちにつかえるさま、
まとまりがなく支離滅裂、

な意味で使うことが多い。「しどろもどろ」は、

平安時代から見られ、広く無秩序な様子を表した。ただし、『源氏物語』は独特で、光源氏の筆づかいが自在である様子を表している、

とあり(擬音語・擬態語辞典)、それは、

中古・中世の用例では、乱れていること全般を表し、特にマイナスの意は強くはなかった、

ということに通じる(日本語源大辞典)のだろう。それが、

中世後期には、特に足取りがたよりないことに多く用いられ、

やがて、近世には、

あわてたり動揺したりして話し方が円滑さを失った様子に偏るようになった、

とある(仝上)。話す様子に使うようになったのは、江戸時代以降ということになる。

「しどろもどろ」の「しどろ」自体、

秩序なくみだれたさま、
とりとめないさま、

の意で、

しどろ足、

という言い方で、

よろよろした足取り、
整わない足つき、

の意で、

はつと気も消え立ち止まり、進み兼ねたるしどろ足、

というように(国姓爺合戦)、使う。あるいは、

しどろなし、

と形容詞で、

乱雑である、
秩序がない、

意でも使う。たとえば、

お年の参らぬは物事にしどろなしうて悪う御座る、

というように(狂言・釣針)、使う(以上広辞苑)。この「しどろなし」で類推するのは、「しどけなし」である。「しどけなし」は、

(服装・態度・性格などについて)少しもとりつくろわず、無造作である、
首尾順序などが整わない、

意で、要は、乱雑、という意だが、この「しど」は、

シドロのシドと同根、ケは気。ナシは甚だしい意、

とあり(岩波古語辞典)、「しどろ」とつながる。

しどろも無し、

という言い方が、江戸語大辞典に載る。これは、

「しどろ」と「しどもない」または「しだらもない」との混交した語か、

とする(江戸語大辞典)。「しだら」は、

ていたらく、
始末、

という意で、

梵語で、秩序の意のstūraからとも、「自堕落」の転ともいう。多く悪い意味に使う、

とあるので、「しどろ」とは別系統の由来と見ていい。「しだらもなし」は、そこから、

しまりがない、
だらしがない、

意になっているので、「しどろなし」と、意味の上で混交したものと思われる。

「しどろもどろ」の「しどろ」は、

シトロモトロ(過所戻所)の義(言元梯)、

という異説もあるが、

乱れている、

意でいいと思われる。で、「もどろ」は、

マダラ(斑)の母音交替形(岩波古語辞典)、
足取り戻(モドロキ)の略轉(大言海)、
マトワル(纏)意のモトホルから(和歌色葉)、
モドロは紛然として混乱する意(音幻論=幸田露伴)、

と種々ある。また、

「もどろ」は「まぎれる」「まどう」意味の動詞「もどろく」の「もどろ」で、「しどろ」に語呂を合わせることで、意味を強めたもの(語源由来辞典)、

は、

マダラ(斑)の母音交替形(岩波古語辞典)、

と同趣である。「もどろく」は、

斑く、

とあて、斑になる、意である。

しかし、「もどろ」は、

同義・同脚韻の語を重ねた強調語、

で、

「しどろ」を強めていう、

という(江戸語大辞典)のでいいのではあるまいか。たとえば、

ひっちゃかめっちゃか、
めちゃくちゃ、

というような、

ことばのリズムと語呂合わせ、

ではないか。「しどろもどろ」は、

四度路戻路、

と当てられたりするようだが、ここまでくると、「しどろ」「しどけない」とは無縁に、言葉遊びになっている。

参考文献;
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
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posted by Toshi at 03:37| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする