2020年05月17日

しぼ


「しぼ」は、

皺、

と当てる。

縮(ちぢみ)・縮緬(ちりめん)などの織物の表面に表れた細かい凹凸。また、皮革や紙につけたしわ、

の意であるが、特定的に、

烏帽子(えぼし)の表面に作られたしわ、

を指す。その「しぼ」は、

さび、

とも言う。

「皺」(慣音シュウ、漢音スウ、呉音シュ)は、

会意兼形声。「皮+音符芻(スウ まぐさをぐっと引き締める、縮む)」、

であり、「しわ」や「表面が縮む」意である。

「しぼ」は、語源を記すものが少ないが、大言海は、

搾りの語根、

とし、

烏帽子(えぼし)の肌に作り為す皺の称、

とある。更に、

粗きを大しぼと云ひ、密なるを、小しぼなどと云ふ、

とある。烏帽子については後述するとして、「しぼ」の語源であるが、「皺」と当てた「しわ」はどうかというと、

萎れたるものの儀、

とある(大言海)。他に、

萎縮の意のシワムから(類聚名物考)、

というのがある。

シオルなどと同源、

ともある(日本語源広辞典)。つまり、その形から、

しぼむ(萎)、
しおる(萎)、

とつながる。「しぼむ」は、

シフ(廃)に通ず(大言海)、
シは緊縮の義をもつ語根(国語の語根とその分類=大島正健)、
シはシハ(皺)、ホムはクホム(窪)か(和句解)、

等々があるが、日本語源広辞典は、

シボ(縮み皺)+る、

とする。「しぼ」は、大言海の、

しぼる(絞る・搾る)、

というよりは、

しぼむ、
しおる、

の、しぼんだ状態表現からきていると見たほうがいいのではあるまいか。

皺がよる、

という状態表現を言い表す、

しわむ(皺む)、

という言葉があるが、

皺を活用した語、

であり(大言海)、

しわむ(撓む)、

という言葉は、

たわむ、

意もあるが、

しをる、
しなふ、

意で、

しおる(萎)の転、

とある(大言海)。

この「しぼ」を烏帽子に特定して用いたのは、もともと「烏帽子」は、

烏塗(くろぬり)の帽子、

の意であり、羅・紗などで袋型に作り、薄く漆をひして張りをもたせたものなので、

烏帽子全体が、柔らかであるために皺が生じた、

からである(有職故実図典)。

大錆.gif


柳錆.gif



後に、

皺の名残を形式化して、ことさらに皺を立てて漆で塗り固め、これを「さび」と呼んで、その大小により、「大さび」「小さび」「柳さび」、

などというようになって、

さび(皺)烏帽子、

といったので、なおさら「しぼ」が代名詞となった(仝上)。

江戸時代以降の立烏帽子の例.gif

(江戸時代以降の立烏帽子の例 http://www.kariginu.jp/kikata/2-2.htmより)


このように形式化した烏帽子を、

立烏帽子(たてえぼし)、

といい、天子・摂関家以下の公卿の平常服である直衣(ナホシ 直(ただ)の服、つまり平常服の意、宿衣(とのいぎぬ)である衣冠の対)の烏帽子とされた(仝上)。

立烏帽子:広橋兼勝肖像.jpg

(立烏帽子:広橋兼勝肖像 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%83%8F%E5%B8%BD%E5%AD%90より)

この立烏帽子が、

風に吹かれて折れた形状をそのまま固定して形式化したもの、

を、

風折(かざおり)烏帽子、

という。狩衣(かりぎぬ 野外遊猟に際して用いた衣)には、立烏帽子の他に、風折烏帽子を用いた。

風折烏帽子.gif

(風折烏帽子 左折り http://www.kariginu.jp/kikata/2-2.htmより)

この風折烏帽子よりさらに細かく折ったものを、

折烏帽子、

といい、武士が好んで用いたので、

侍烏帽子、

とも言う。直垂(ひたたれ 水干と同様袴の下に着籠めて着用した)に用いた。直垂は、武士にとって鎧の下に着るのに都合がよかったので用いるようになり、室町時代には礼服に準ずるようになる(仝上)。

烏帽子古式の侍.jpg

(古式の侍烏帽子 http://www.kariginu.jp/kikata/2-2.htmより)

「さび」は、

さぶ(荒)の名詞形、

とあり(大言海)、

秋や深き月の光もさびえぼし頭の上に影の成ぬる(七十一番職人歌合)、

とあり、

きらめきえぼし、

に対し、

荒びたるゐならむ、

とある(大言海)。

古びて趣の出た、

という含意であろうか。昔、学帽を、わざと古びさせたのと似たマインドであるようだ。

折烏帽子:多賀高忠肖像.jpg

(折烏帽子:多賀高忠肖像 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%83%8F%E5%B8%BD%E5%AD%90より)

今日では、

シボ加工、

という表面処理のひとつとして、物理的にシワ模様(シボ)をつける。「シボ加工」は、

金属やプラスチックなどの素材の表面に細かい凹凸の模様(パターン)を付けて質感を表現する加工法

のことである(IT用語辞典バイナリ)が、いわゆる「梨地」や、細かく擦った跡のような筋目を入れる「ヘアライン加工」なども、シボ加工の一種となる。

参考文献;
鈴木敬三『有職故実図典』(吉川弘文館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:29| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする