2020年05月27日

青柳


「青柳」は、

あお(を)やぎ、

と訓んで、本来、

春先に芽吹き始めた柳、

の意(岩波古語辞典)であり、

あをやなぎ、

のことである。大言海に、

あをやなぎと云ふが本語なれど、多くは、おをやぎと云う、

とある。さらに、それを名にした、

催馬楽の曲名、

とある(仝上)。源氏物語に、

兵部卿の宮あをやぎをりかへしおもしろくうたひ給ふ、

とある。「催馬楽」とは、

平安時代初期、庶民のあいだで歌われた民謡や風俗歌の歌詞に、外来の楽器を伴奏楽器として用い、新しい旋律の掛け合い、音楽を発足させたもの、

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%82%AC%E9%A6%AC%E6%A5%BD

もともと一般庶民のあいだで歌われていた歌謡であることから、特に旋律は定まっていなかったが、貴族により雅楽風に編曲され、「大歌」として宮廷に取り入れられて雅楽器の伴奏で歌われるようになると宮廷音楽として流行した、

とある(仝上)。

笏拍子(しやくびようし)・和琴(わごん)・笛・篳篥(ひちりき)・笙(しよう)・箏(そう)・琵琶(びわ)、

等々で伴奏し(大辞林)、

平安中期から室町期まで宮中賢所で神楽のときうたわれた、

らしい(仝上)。「あをやぎ(青柳)」は、

青柳を 片糸によりて や おけや 鶯の おけや
鶯の 縫うという笠は おけや 梅の花笠や

とあるhttp://false.la.coocan.jp/garden/kuden/saibara1.html。さらに、

地歌筝曲、端唄・小唄にも、

青柳

というものがあるらしい(広辞苑)。また、「青柳」を、

あおやなぎ、

と訓ませて、

襲(かさね)の色目、

にその名のものがある(広辞苑)。

表は青、裏は薄青、また表裏ともの濃青、春着用(山科家色目抄)、

ともある。「卯の花」http://ppnetwork.seesaa.net/article/472739320.htmlで触れたように、「色目」とは、

十二単などにおける色の組み合わせ、

をいい、

衣を表裏に重ねるもの(合わせ色目、重色目)、
複数の衣を重ねるもの(襲色目)、
経糸と緯糸の違いによるもの(織色目)、

等々があるhttp://www.kariginu.jp/kikata/kasane-irome.htm。その代表的なものは表裏に重ねる、

合わせ色目、

がある。「青柳(あおやなぎ)」という名で、

山科家色目説、

として、表が濃緑、裏が薄緑の、春用のものとされる。

青柳.gif

(青柳(あおやなぎ) http://www.kariginu.jp/kikata/kasane-irome.htmより)

しかし、今日、

青柳(あおやぎ)、

というと、

バカガイの身、

の俗称として通用している。しかし岩波古語辞典、大言海には、「青柳」では載らない。

関東地方でバカガイをアオヤギというのは、「千葉県市原市青柳」で多く採れたので、商品名としてバカガイを避けたもの、

とある(日本語源広辞典)。「青柳」の名は、

「馬鹿貝」とも解せるものを寿司ネタとして供したり、品書きに表したりすることを嫌った江戸時代の江戸前寿司の職人が、当時の江戸周辺地域におけるバカガイの一大集積地(一手に集めて出荷する場所)であった上総国市原郡青柳(千葉県市原市青柳二丁目)の地名に代表させて、これを雅称として呼び代えたのが始まりである、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%AB%E3%82%AC%E3%82%A4。すしネタに使われたのが発祥である。だから、「青柳」と呼ぶのは、

貝殻を取り除いた軟体部位全体を指す語

を指し(仝上)、「貝」の名ではない。寿司の種としては、

青柳、

と呼んだことが、全国的にも広く認知されることになった(仝上)。

バカガイの剥き身を造る深川のむきみ女を描いた歌川国芳の浮世絵。.jpg

(バカガイの剥き身を造る深川のむきみ女を描いた歌川国芳の浮世絵 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%AB%E3%82%AC%E3%82%A4より)

「バカガイ」は、

破家蛤、
馬珂蛤。
バカ貝、
馬鹿貝、
馬珂貝、

とも記し(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%AB%E3%82%AC%E3%82%A4、日本語源大辞典)。

ミナトガイ、

とも言い、地方によっては、

ウバガイ、

とも呼ばれる(たべもの語源辞典)。本朝食鑑(元禄10年(1697年)刊)に、

馬鹿蛤、波加加比、

とある(大言海)。和漢三才図絵(正徳2年(1712年)成立)には、

馬鹿貝、状類蚶(あかがい)、而淡白、肉類蚶淡赤、其味靭不可食、凡人称頑愚不見用、曰馬鹿此肉亦然、故名、

とある(仝上)。

料理に使うのは舌(足)の部分が多く、他は砂が多いのであまり用いない、

という(仝上)。

色の赤いのが雌、白っぽいのが雄、

である(仝上)。

バカガイ.jpg


「バカガイ」の語源には、

外見はハマグリに似ているものの、貝殻が薄く壊れやすいことから「破家貝」として名付けられたとする説、
いつも貝の口をあけてオレンジ色をした斧足(ふそく、筋肉による足)を出している姿が、あたかも口を開けて舌を出している「馬鹿」な者のように見えたとする説、
一度に大量に漁獲されることがあるので、「『バカ』に(「非常に、凄く」の意)多く獲れる貝」の意でその名が付いたとの説、
たくさん獲れた地域の名「馬加(まくわり)」(現在の幕張)を「バカ」と音読みし、「バカ貝」と呼ばれるようになったとする説、
馬鹿がハマグリと勘違いして喜ぶ様から馬鹿が喜ぶ貝という意味であるとする説、
蓋を閉じずに陸に打ち上げられて鳥に食べられてしまうことなどの行動から「バカ貝」と呼ばれるようになったとする説、
頻繁に場所を変える「場替え貝」から来ているとする説、

等々あるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%AB%E3%82%AC%E3%82%A4が、大言海は、

殻より舌を出し居るより云へるか、或は云ふ、安房に赤貝の如くにして、此貝に似たるものに、ウマカヒ(旨貝)と云ふあり、その約まれるかと、

とする。たべもの語源辞典も、

馬鹿が舌を出しているのに見立てて、この名がつけられた、

としている。いずれにしても、その生態の振舞い、恰好がおろかに見えるとする説が多いようである。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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