「ぞめき」は、
騒き、
と当てる。古くは、
そめき、
と、清音だったらしい(広辞苑)。
(歌川国貞「北廓月の夜桜」 http://edogoyomi.art.coocan.jp/3dedo/yoshiwara/indexb.htmlより)
さわぐこと、
うかれさわぐこと、特に遊び人などが遊郭をひやかし騒ぎ歩くこと、
という意味である。「ひやかし」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/427676354.html)で触れたように、嬉遊笑覧(文政十三年(1830)刊)に、
「素見、ぞめき、万葉に、驂(そめき)、沙石集に、世間公私のぞめきなど見えて、古語なり、云々。今はそそるとも、ひやかすとも云へり、云々。或る人云、むかし、山谷には、すきかへしの紙を製する者多く、それが方言に、紙のたねを水に漬けおき、そのひやくる迄に、郭中のにぎわひを見物して帰るより出たる詞といへり」
とあるので、「ひやかす」の項で、大言海は,
ひゆるの他動,ふやくる,ふやかすの類、
として,
冷くるようにする。ひやす,漬くる、
の意味の次に,
東京の俗語に,素見(すけん)す,ぞめく,そそる、
とある。どうも、ほぼ「ぞめく(そめく)」は、
ひやかす、
と同義だったようである。
当時のぞめきは、思ふ友を誘ひ、ここへ渡り、かしこへさしかけ、ざわつき廻る貌(かたち)を云ふ也、
とある(色道大鏡)。大言海は、「ぞめき」は、
素見、ひやかし、
の意とある。物類称呼(安永四年(1775)刊)に、
遊客の、曲廓に至るを、京都にて騒(ぞめき)と云ひ、江戸にてそそりと云ふ、
とある(大言海)。それが今日、阿波おどりのリズムを
ぞめき、
と称しているという。
阿波おどりでは「ぞめきのリズムに合わせて踊る」というように、いわゆる阿波おどりのお囃子のことを「ぞめき」と呼びます。
ぞめき以外に阿波おどりで演奏される代表的なお囃子としては「阿波よしこの」「吉野川」「祖谷の粉ひき唄」「阿波の麦打ち唄」などがありますが、阿波おどりのお囃子を総称して「ぞめき」と呼んでおり、これには確かな定義がある訳でもありません。
それだけに、連によって様々な「ぞめき」が存在します。
とある(https://nansuiren.com/zomeki.html)。これはどちらかというと、「ぞめき」の、
浮かれ騒ぐ、
意からきていると見ていい。
男は尻ぱしょりの浴衣がけに手ぬぐい頰かぶり,足袋はだし,女は片肩脱ぎの浴衣を裾からげに着て赤い蹴出しを見せ鳥追笠をかぶり,白手甲,白脚絆,白足袋,黒の利休下駄をはき,数十人単位の連(れん)を作り街道を流し踊り歩く。これを〈ぞめき〉という、
ともある(世界大百科事典)。「ぞめき」にもスタイルがあるらしい。
「ぞめき」は、
「ぞめく」の連用形名詞、
だが、「ぞめく」も、
ざわざわと騒ぐ、
(遊里や盛り場を)騒いで浮かれ歩く、
という意(岩波古語辞典)だが、江戸語大辞典には、
わいわいしゃべったり唄ったりしながら歩く、遊里や露店などを見物して回る、口々にわめいて冷かす、
が主たる意味で、
わいわい言う、
が従の意味になっているように見える。
この「ぞめく」、ふるくは、
そめく、
は、
さめくの転、
とある(大言海)。そして、
そそめくに同じ、
急ぎ騒ぐ、
意とする。「そそめく」は、
騒騒(さわさわ)する、そよめく、そめく、
の意が載る(大言海)。
ソソはソソキ(噪)・ソソノカシ(唆)のソソと同根、
とある。また、
そそく、
という言葉がある。
ソソクは、燥急(そそ)くの儀、いすすくの上略轉、
とある(大言海)。「いすすく」(倉皇)は、
うすすく、
ともいい、
そわそわする、
意である。また、「ソソク」の、
ソソは擬態語、そわそわ・せかせか・ざわざわなどの意。クは擬音語・擬態語を承けて動詞をつくる接尾語。カガキク(輝く)・ワナナク(震)のクと同じ。ソソク(注)とは別音、別語、
ともあり、
そそく→そそめく→そめく、
といった転訛のように思われる。「そめく」のもととなる擬態語は、
ざわざわ、
かと思われるがちであるが、どうも、
そわそわ、
の意の、
そそ、
のようである。
そそ→そそく→そそめく→そめく、
といった風な。この「そそ」は、せわしいさまの、
そそくさ、
という擬態語に生きている。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95