2020年06月14日

しずく


「しずく」は、

水や液体がしたたりおちる粒、

の意である(広辞苑)。

雫、
滴、

と当てる。「雫」(漢音ダ、呉音ナ)は、

会意。「雨+下(おちる)」。中国でもこの字を使うが、雫の意味に用いる場合は、国字、

とある(漢字源)。

曲線をえがいてしたたるさま、

の意だが、

しずく、

では用いない、らしい。「滴」(漢音テキ、呉音チャク)は、

会意兼形声。啇は、啻(一つにまとまる)の変形した字。滴はもと「水+音符啇(テキ)」。しずくはひと所に水が集まり、たまったときぽとりと垂れる。ひと所にまとまる意を含んだ言葉である、

とある(仝上)。「したたる」「ひと所に集まったしずくが垂れ落ちる」意である。漢字には、他に、

零、
涓、
瀝、

等々も、「しずく」の意味がある。「零」(漢音レイ、呉音リョウ)は、

会意兼形声。令は、清らかなお告げのことで、清らかで冷たい意を含む。零は「雨+音符令」で、清らかなしずくのこと。また「雨+〇印三つ(水玉)」とも書く(霝)。小さな水玉のことから、小さい意となった、

とあり(仝上)、「清らかな水玉」の意、「おちる」「欠けて小さい」意がある。「涓」(ケン)は、

会意兼形声。右側の字(エン・ケン)は、丸く体をひねるぼうふら。涓はそれを音符とし、水を加えた字で、細くひねる意を含む、

とある(仝上)。「しずく」の意もあるが、ちょろちょろと流れる水、の意である。「瀝」(漢音レキ、呉音リャク)は、

会意兼形声。歴の上部はもと「厂(やね)+禾(いね)二つ」の会意文字で、稲をつらねて納屋にならべたさま。歴は、それに止(足)を加え、つぎつぎとつづいて各地を歩くこと。いずれもじゅずつなぎに続く意を含む。瀝は「水+音符歴」で、水のしずくがじゅずつなぎに続いて垂れること、

とある(仝上)。「しずくが続いて垂れる」意である。

雫.jpg


「しずく(しづく)」は、

シヅム(沈)・シヅカ(静)のシヅと同根、、

で、「しづく」の、

シヅは、下に沈んで、安定しているさま、

とある(岩波古語辞典)。

沈む意、

とする(大言海)のも同趣旨と思える。「静か」について、

「沈む、鎮む」と同語源、ジスは、静か、閑か、シズマル、シズマリカエル、シズメル、シズシズなど、多くの語を作り出しています、

とする(日本語源広辞典)のも、同じ流れである。しかし、

垂(し)づ、

という動詞がある。

したたり落ちる、

意の、

垂(し)づるの他動詞形、

であり、

垂らす、
しだれさせる、

意である。

組みの緒しでて宮路通はむ(拾遺・神楽)、

という用例があるように、名詞形は、注連縄や玉串、祓串、御幣などにつけて垂らす、

垂・紙垂・四手(しで)、

である(岩波古語辞典)。「し(垂)づ」の連用形から名詞化した。

紙垂.png


「垂(し)づる」のシヅは、やはり、

シヅム(沈)・シヅカ(静)のシヅと同根となる。「垂(し)づる」の名詞形、

垂(し)づり、

は、

水滴などのしたたりおちること、また、滴り落ちたもの、

の意であり、

垂(し)づれ、

とも言う(仝上)。

つまり、「垂れる」意の、

垂づ、

の「しづ」が、「しづく(滴)」の語根と見られるが、それは、

沈む、

の「しづ」にたどり着く。

沈(しづ)く、

という言葉がある。

水底にしずみつく(岩波古語辞典)、
水の中に透き映りてみゆ(大言海)、

という意味で、やはり、

シヅ・シヅム(沈)などと同源(時代別国語大辞典-上代編)、

と、

「しづく(滴)」とは、少し意味は違うが、表記は同じ「しづく」である。「しづく(沈)」と「しづく(滴)」が、重なる要因にはなるかもしれない。

さて、「しづ(ず)む(沈)」は

水の中に下がる(大言海)
水中に没する(岩波古語辞典)、

意だが、

シ(下)+ツム(積む)(日本語源広辞典)、
シ(下)+ウム(埋む、(日本語源広辞典・言元梯・和句解)、
シ(下)+ツム(付)(日本語源=賀茂百樹)、

等々、「シ」を

下、

と解するものが多い。「下」は、

シタ(下)・シモ(下)などのシ、

で、下枝(しづえ)のように、複合語をつくる(岩波古語辞典)。そう考えると、「しづく(滴)」も、

シ(下)+つく(付)、

というのはあり得る。しかし、

「下」もまた「しず」と読む、

とするhttps://www.ihi.co.jp/var/ezwebin_site/storage/original/application/10d34a25711637ececc726a22a5ecb2e.pdf説がある。それが正しいとすると、「しづむ(沈)」も、

下、

の動詞化とも考えられ、「しづく(滴)」も、「シヅ(垂)」も、「下」と関わるのかもしれない。とすると、

賤しい意の、

賤(し)づ、

は、

シズム(沈)・シヅカ(静)シヅク(滴)などのシヅと同根、

とある(岩波古語辞典)のは、

下(しづ)、

と見ると、その状態を価値表現とする意がすんなり入る気がする。もしそうなら、「下枝」を、

しもつえ・したつえ→しづえ、

の転訛ではなく、はじめから、

シヅエ、

と訓ませた可能性も出てくる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:20| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする