2020年07月21日

たくあん


「たくあん」は、訛って、

たくわん、

とも言い、

沢庵、

と当てる。江戸初期の臨済宗の僧、澤庵宗彭(たくあんそうほう)のそれではなく、

沢庵漬、

の「たくあん」である。

干した大根を糠と塩とで漬けて重石(おもし)でおしたもの、

の意である(広辞苑)。「たくあん漬け」の呼び名は関東から発生したもので、京都では、

辛漬(からづけ)、

九州では、

百本漬(ひゃっぽんづけ)、

と称する、とあるhttps://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1205/01a.html

沢庵漬け.jpg


この「たくあん」の由来に、沢庵和尚が絡んでくる。諸説あるが、

沢庵宗彭が創建した東海寺では、「初めは名も無い漬物だったが、ある時徳川家光がここを訪れた際に供したところ、たいそう気に入り、『名前がないのであれば、沢庵漬けと呼ぶべし』と言った」と伝えられるが、東海寺では禅師の名を呼び捨てにするのは非礼であるとして、沢庵ではなく「百本」と呼ぶ、

と、沢庵創案とする説がある(広辞苑・日本語源広辞典・大言海)。本朝食鑑(1697)には、

香物…有百本漬者、……或称沢庵漬、

とあり、沢庵漬を百本漬の異称とし、沢庵和尚の在住した大徳寺から広まったところからの名称であるとしている(日本語源大辞典)。ちなみに、「百本漬」は、

大根百本が酒の四斗樽ひとつにおさまる量である、

ところから呼ばれたが、料理塩梅集(1668)の「大根百本漬」と「料理綱目調味抄」(1730)の「沢庵漬」の製法は糠・塩・麹の比率まで同じで、百本漬と沢庵漬とが同じものをさす(仝上)、と思われる。

沢庵創案については、当時も議論の対象になった由で、「物類称呼」(1775)は、

今按に、武州品川東海寺開山沢庵禅師制し給ふ、依て沢庵漬と称するといひつたふ、貯漬(たくはへづけ)といふ説有、是をとらず、又彼寺にて沢庵漬と唱へず、百本漬と呼也、

として、沢庵創案説を否定している。

沢庵と関わらせる説には、他にも、

沢庵和尚の墓(無縫塔)の形状が大根漬の圧石の形状に似ていたから(書言字考節用集)、
沢庵和尚の墓の形が大根漬の形に似ていたから(俗語考・すらんぐ=暉峻康隆)、

等々もある。俗語考(1841)には、

(沢庵)和尚の墓一個の圓石にして、其石の形、大根の香の物に似たり、故に粉の渾名をおふせたるが、和尚の名とともに世に広くひろまりたる也、

とある。沢庵説については否定説が多いが、

「沢庵」のような食べ物は、既に平安時代から作られていたとされ、沢庵和尚の説を否定されることもあるが、米ぬかが普及したのは江戸初期のため、一般に普及した際、沢庵和尚が何らかの形で関わっていたとも考えられる。また、「貯え漬け」や「じゃくあん」が音変化した後、沢庵和尚と関連付けられて「沢庵」の字が当てられたとも考えられ、どちらが先であるか不明である、

とみる見方もある(語源由来辞典)。しかし、たべもの語源辞典は、「たくあん」は、

沢庵(1573~1645)が生まれる前からあったもので、沢庵が発明したというのは間違いである、

と明確に否定したうえで、

塩糠で乾大根を漬けたものを京阪では「香の物」とか「香々(こうこう)」とのみいい、それを江戸で沢庵漬といった。要するに、沢庵漬という呼び名は関東だけで他国には通じなかった。沢庵の「沢」は、うるおう、めぐみ、まじりけなし、つやつや、などの意味があり、「たく」とか「じゃく」とよむ。「庵」には、こじんまりと閉じこもることで、「いおる」(庵る)という。「いおり」には、落ち着く、沈む、耽るという意味がある。九州では、味噌や漬物は、かやぶきの庵に貯えて、塩むしろをかぶせて大切に保存していた。「じゃくわん」(沢庵)というのは、大根に限らず、すべて糠と塩で漬け込んだものをいい、「じゃかん」とも言った。京都の辛漬、九州の百本漬は、沢庵(じゃくあん)ともいった、

とし、

じゃくあん→じゃかん→(「沢庵」の訓みから)→たくあん→たくわん、

と転訛した、とする。一応この転訛説は説得力がある。

「たくあん」の由来については、確かに、

「混じり気のないもの」という意味の「じゃくあん漬け」の転訛(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%A2%E5%BA%B5%E6%BC%AC%E3%81%91、語源由来辞典)、
「貯え漬け(たくわえづけ)」が転じた(袂草・日本語源広辞典・大言海)、

と同趣の説があり「たくあん」は主に関東で使われていた呼び名で、西日本では「百本漬」や「香の物」と呼んでいたため、

じゃくあん(漬)、

は「沢庵(漬)」の転訛とする見方はある(語源由来辞典)。ただ、保存漬であるから、

貯え漬け、

が転訛して「沢庵漬」となった、とする説はたべもの語源辞典が否定している。また、その他、

比叡山には元三大師こと慈恵大師良源(912年-985年)が平安時代に考案したとされる「定心房(じょうしんぼう)」と呼ばれる漬物が伝えられており、これを沢庵漬けの始祖とする説(司馬遼太郎『街道をゆく16 叡山の諸道』)もある。これは丸干しした大根を塩と藁で重ね漬けにしたものであったとされるが、現在「定心房たくあん」として販売されているものは一般的な糠漬けの沢庵である、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%A2%E5%BA%B5%E6%BC%AC%E3%81%91

糠が江戸初期以降としても、塩や麹によるものは既にあったと思われる。だが、

江戸時代の初期に白米を食べるようになったことから、その副産物として生まれる糠を用いることで、広く普及するようになった、

と言われるhttp://www.kyuchan.co.jp/takuan/のは確かで、ただ、なぜそれに沢庵和尚が結びつけられたのは、転訛の過程で、

沢庵、

と同じ字の「沢庵」和尚か付会されたにすぎない気がする。

なお、沢庵の主な生産地は九州や関東で、それぞれの産地で製法や味覚は若干異なり、ひとつは、

「干した大根を漬け込む」方法。天日で干して大根の水分量を調整し、歯ごたえや甘味を引き出してから漬け込む昔ながらの製法、

があり、いまひとつは、

「大根を塩押ししてから漬け込む」方法。収穫した大根を塩分によって脱水して旨味を引き出してから漬け込んでいく製法、

後者から生まれる沢庵はソフトな食感で現代の食生活に溶け込んでいる、とある(仝上)。

たくあんの漬け込み.jpg

(たくあんの漬け込み 「尾張名所図会(1844年)」 たべもの語源辞典より)

なお、「ぬか」http://ppnetwork.seesaa.net/article/460643894.htmlについては、すでに触れた。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:00| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする