2020年08月05日

倭寇


竹腰輿三郎『倭寇記』を読む。

倭寇記.jpg


昭和十四年上梓という、時代的制約があるが、「倭寇」といわれるものの、概略をつかむにはちょうどいいのかもしれない。ほとんど「倭寇」という言葉は、国内の文献には登場しないので、時代を経ても、それほど内容の変化はないのかもしれないが、当然最新の研究成果は期待できない。

「倭寇」という言葉が使われているが、明の文献にも、

大抵の倭寇は真の倭、十の三にして、従ふもの七、

其の倭は十の三にして倭に従ふ者十の七、倭戦へば則ち其掠むる所の人を駆りて軍峰たらしめ、法厳にして人皆な死を致す、

等々とあり、日本人だけではなく「異人種」が多数含まれている。そこには、中世の日本国内とは別の、ある種の国際的な海上世界がある。しかし、その特徴は、

日本流の紅柄染の大模様を染め出した衣服を着用、

し、また、

倭の旗號を用ひた、

とある。「倭寇」たる旗印である。

当時倭寇は、船先に八幡大菩薩の旗を立てて単に祈り、自ら安んじたもので、倭寇と云へば、必ず八幡大菩薩の旗を連想せしむるほどであるから、支那の海賊もまたこの旗を立てたものであろう。そして明人は八幡の二字を「バハン」と読むので、一転して、海賊の所業、若くは密貿易をバシンと號し、やがてそれが日本語となって、「バハンする」若くは「バハンしない」とも云ふ動詞となってしまったと云はれる、

とある。で、倭寇が用いる、

七十頓内外の船、

を、

バハン船(八幡船)、

と呼び、「バハン」は、

海賊、

を意味し、転じて、

密貿易、

を意味するようになる。

徳川氏の初、外国に航行することを許可せられた船長は、誓書に記して、「バハン致すまじく候」と書くようになった、

ともある。ただ、「バハン」の由来については異説があり、

バハンはむ支那音にあらず、配半の支那音であるとなし、昔し鎮西八郎為朝が宋の濱海を侵したとき支那の海賊から配半税(バハン)の方法に従って、収穫の山分を要求せられたことから、日本では此バハンと云ふ語を使用するようになった、

とする説もあるらしい。しかし「八幡」は、

奪販、
番舶、
破帆、

とも当てる(ブリタニカ国際大百科事典・百科事典マイペディア)らしいので、八幡大菩薩の「八幡」であるかどうかは、少しいかがわしいかもしれない。

倭寇図巻と明人抗倭図巻.jpg


確かに、「倭寇」は、

永正大永の頃より、伊予國海中因島、久留島、大島の地士、飯田、大島、河野、脇屋、松島、久留島、村上、北浦、等諸士共に相議して、外国に渡海し、海戦を働き各家を富さん事を謀り、野島領主村上図書を議主と定め、各其一族浮浪の人数を集め、都合三四百人大小十余艘の船に乗り、大洋を航行し、西は大明国の寧波、福建、広東、広西、等の諸州より、西南は印度の諸国、安南、広南、占城(チャンパン)、東坡塞(カンボヂャ)、暹羅、其他南海中の呂宋、巴刺臥亜(パラコヤ)、渤泥(ボルネオ)等の諸島に至り、近海諸邑を剽掠し、種々の財物器械を奪取し来たりて、其家を富せり、

とあるように、国内から出航した者たちがたくさんいたことは確かだが、明人の、

汪直、
徐海、
陳東、
鹿葉、

等々が倭寇と共謀するようになって、

倭寇の勢力が益増加、

した事実はある。後期の倭寇であるが、汪直は平戸に居を構え、

門太郎次郎史四助四郎等と結んで、方一百二十歩の巨船を作った。この船は二千人を容れ、木を以て城と楼とを船の上に立て、舟上、馬を走らせるといふ、

一大勢力を成し、1553年(明暦の嘉靖三十二)に、

數十種の倭寇を糾合して支那に侵入し、連艦数百をもって海を蔽ふて進み、……先づ昌國衛を破り、四月大倉を犯し、上海県を破り、揚子江を遡り、江陰を掠め、乍浦を攻め、金山衛を襲ひ、崇熟を攻め、翌年正月には、オオクラり蘇州を攻め松江を掠め、江北の通泰に迫り、六月には呉江より嘉興を掠め川沙窪拓林を以て巣窟となし、四方を侵掠した、

という。結局明の本軍と戦い、

死者千九百に及んだ、

というのだから、その勢力の大きさがうかがえる。しかし、豊臣秀吉の国内統一を機に、八幡の渡航を禁じたことから、さしもの倭寇は、終息したが、別の意味での海外渡航、海外貿易は、衰えず、山田長政のような、海外で活躍する者たちが続く。

参考文献;
竹腰輿三郎『倭寇記』(白揚社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:55| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする