2020年08月11日

天下取り


谷口克広『秀吉戦記―天下取りの軌跡』を読む。

秀吉戦記.jpg


信長研究の第一人者による、秀吉伝、それも良質の史料をもとにした、

秀吉が信長に仕えてから賤ケ岳の戦いに勝つまでの二十数年間が、誰も真似できない彼の能力が最大限発揮された時期(おわりに)、

についての秀吉であり、

天下を平定した後の秀吉には傲岸な為政者の像が目立ち、さらに晩年には誇大妄想や惨忍さまで表れて(仝上)、

姿を隠した「かつての爽やかな姿」の秀吉像に焦点を当てている。

著者は、「一介の農民だった秀吉を天下人に押し上げたもの」は、

一にも二にもかれの精勤さ、

であるという。おそらく寝る間も惜しんで、

他の者の二倍は動いている、

と。自身が、小早川隆景に宛てた手紙で、

若い頃から、信長家中で、自分の真似のできるものはなかった、

と書くほど働いたのである。その上に、

他人の真似できない能力、

がある。その第一は、

現実を踏まえてきちんと計算できること、

を挙げる。

大ざっぱに何日行程とされているところでも、何キロメートルだから一心に飛ばせば何時間で行ける、と彼は計算する。そして、そのために必要な物資、馬とか食料とかを素早く調わせる、

という。

周りの状況を適格に読む力も、秀吉は他の者よりも抜きんでている。秀吉には、中国大返しをはじめ何度かいちかばちかの賭けがあるが、賭ける前に冷静な状況判断がある。これら徹底的に現実を踏まえた思考は、当時にあっては驚くべきものと言っていい、

と。そして、第二は、

相手をたちまちに心服させてしまう才能、

という。俗に、

人たらし、

といわれる能力である。梟雄といわれた宇喜多直家は、最晩年秀吉に心服し、毛利戦の最前線に立つ。賤ケ岳の戦いで、柴田勝家や織田信雄の配下をたちまちのうちに味方にしてしまう手腕など、

まるでマジック、

である、と。そして、

秀吉は、決して自分に付いてくる者を裏切らなかった。宇喜多に対して信長が赦免しなかった時でも、身をもってかばい、決しておろそかにすることはなかった、

と。

では、その秀吉が、天下取りに成功したのは才能だけか、というと、

何重にも重なった運の良さ、

があった、という。その一つは、

秀吉が仕えたのが能力尊重主義の信長だったということである。主君が信長だったからこそ、小者からはじまって方面司令官という家臣最高の地位まで昇進できた、

のである。第二は、

自他ともに認められた信長の後継者である信忠が、信長と一緒に倒れたことである。信忠が難を逃れていたらならば、秀吉には全くチャンスはなかったはずである。

第三は、

明智光秀と戦うことのできる軍勢を持った有力武将、柴田勝家、羽柴秀吉、滝川一益のうち、秀吉が京都から最も近い地点にいたことである。しかも秀吉は、敵の毛利氏と講和交渉の段階になっていた。本能寺の変を知った秀吉は、いち早く講和を結んで、弔い合戦に備えることができた。毛利氏が追撃してこなかったのも、大きな幸運であった。

第四は、

秀吉と一緒に弔い合戦を行ったのが三男の信孝の方であり、その功績によって、二男の信雄との差がなくなってしまったこと、後継者としての資格が互角になった二人が争ったため、一方を立てにくくなった。

第五は、

ライバルの一人滝川一益が没落しただけでなく、清須会議に間に合わなかったこと。おかげで、丹羽長秀・池田恒興を籠絡した秀吉は、勝家に対して三対一の優勢を保ったまま会議に臨むことができた。

第六は、

謀叛を起こして滅びてしまった明智光秀が、機内一帯に支配権をもつ「近畿管領」ともいうべき地位にあったということ。そのため秀吉は、その跡を取り込んで京都近辺を固めることができた。

もちろん、その幸運を生かすも殺すも、本人次第である。それについて、著者は、

これほどの幸運が重なるのだから、まさに秀吉は幸運の女神の寵児といってよいだろう。しかし、幸運を最大限に生かすものは、やはり当人の実力である。本能寺の変以後の秀吉の動きを見てみるがいい。毛利との交渉、中国大返し、山崎の戦い、丹羽・池田・堀(秀政)の取り込み、清須会議、畿内の掌握、いかに敏速でかつ適格であったか。秀吉の前には、優れた人材であったはずの明智や柴田さえ、のろまで能無しに見えてしまうほどである。

と書く。この時期の秀吉は、まさに絶頂である。

羽柴秀吉.jpg

(羽柴秀吉像(光福寺蔵))

参考文献;
谷口克広『秀吉戦記―天下取りの軌跡』(集英社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:54| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする