2020年08月14日

からい


「からい(からし)」

辛い、
鹹い、
酷い、

等々と当てる(広辞苑・岩波古語辞典)。「からい」の意味は、

舌を刺すような鋭い味覚、古くは塩けにも酸けにも使う。転じて、感覚的に、骨身にしみるような状態。類義語ツラシは他人の仕打ちを情けなく感じる気持ちを言う」

とあり(岩波古語辞典)、味覚の、

激しく下を刺激するような味、

の意がはじめで、それには、

(唐がらし・わさび・しょうがなどの味にいう)舌がささるようだ、ひりひりする、

の意と、

(「鹹い」と当てる)塩味が強い、しょっぱい、

の意と、

酸味がつよい、すっぱい(新撰字鏡)、

の意と、

こくがあって甘みの少ない酒の味にいう(新撰字鏡)、

と、幅広い味覚を指している。その味覚の刺激が転じて、広く身体への刺激の意に広がって、

心身に強い刺激を与える状態、または心身に強く感ずるさま、

の意で使う。その意味では、

やり方や仕打ちが厳しく酷い、残酷である、
あやうい、あぶない、

という外からの視点の価値表現と、

つらい、せつない、

という意や、

いやだ、気に染まない、

という内の主体的な価値表現とがあり、それが転じて、連用形を副詞的に使って、

男女からく神仏をいのりて、この水門を渡りぬ(土佐日記)、

というように、

必死に、懸命に、

の意や、

けしうはあらぬ歌よみなれど、からう劣りにしことぞかし(大鏡)、

というように、

大変酷く、

の意でも使う(以上、広辞苑)、と結構幅広い意味がある。江戸語大辞典をみると、

むごい(文化五年・俊寛僧都島物語「怨みを報はんとて、かくまで苛(から)く挙止(ふるま)へるなり」)、

とか、

つらい(文化四年・新累解脱物語「さては彼の醜婦の冤魂(おんりょう)わが児にまつはりて辛き見するにや」)、

とか、

しわい(文政十二年・孝女二葉錦「辛吝(から)くして人のかすり斗りとるやうでは。矢張是も済まねへから」)、

と、味覚の意味が、価値表現へと転じた意味のみが載る。

ただ、古くは、

塩の味を形容する語であり、「あまし」の対義の関係にあったと考えられる。塩味にも通じる舌を刺すような鋭い味覚の辛味を形容する例は平安時代の頃よりみられるが、塩味を「しははゆし」「しほからし」と表現するようになるにしたがって、「からし」は辛味にもちいられる例が多くなっている、

とある(日本語源大辞典)。つまり、もともとは、

からし、

は、

鹹し、

と当てる意味だったが、

しほからし、

と分化したことで、辛味に集中した、ということになる。たしかに、「塩からい」意の「からし」は、万葉集に、

志賀の海人(あま)の、煙焼き立て、焼く塩のからき戀をも吾はするかも(石川君子)、

とあり、辛味の「からし」は、

みな月の河原に生ふる八穂蓼のからしや人に遭はぬ心は(古今六条)、

と平安期に出てくる。

さて、「からい」の語源であるが、大言海は、日本語源広辞典が否定する、

気苛(けいら)しの略転、来到る、きたる。衣板(きぬいた)、きぬた、

とする。日本語源広辞典は、喉が嗄れるような味という意で、

カラ(嗄)+イ、

を採る(他に、国語の語根とその分類=大島正健)。その他、

その味のはげしく、人のいかりのようだということで、イカルから(日本釈名)、
イカラン(憤味)の上略(柴門和語類集)、
「カラシナ」の種(芥子)が辛いので辛しと呼ばれたhttps://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1318075738

等々あるが、塩味が先だとするなら、

カラ(嗄)+イ、

なのかもしれない。ただし「芥子」http://ppnetwork.seesaa.net/article/476744145.html?1596918519で触れた、「芥子」(からし)は、正倉院文書にもあるほど古いので、これから来たとする説も捨てがたい。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:41| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする