2020年09月06日

芥子


「芥子」(カイシ)を、

からし、

と訓ませる「芥子」http://ppnetwork.seesaa.net/article/476744145.htmlについては、触れた。ここでは、「けし」と訓む「芥子」てある。

「けし」は、

罌粟、

とも当て、

罌子、

とも当てる。芭蕉の句に、

罌子咲いて情に見ゆるやどなれや、

がある。

罌子粟、

とも書いた(たべもの語源辞典)、とある。漢名は、

朱嚢子、
米嚢花、

とも書く(仝上)。

鴉片花(あへんか)、

と書くのは、ケシからアヘンを採るからである。

嚢子、
象穀、
御米花、

という漢名もあるらしい(仝上)。

「芥子」の「芥」(漢音カイ、呉音ケ)は、

会意兼形声。「艸+音符介(カイ 小さく分ける、小さい)」、

とある(漢字源)。「介」(漢音カイ、呉音ケ)は、

会意文字。「人+八印(両脇にわかれる)」で、両側に二つに分かれること。両側から中のものを守ることでもあり、中に介在して、両側をとりもつことでもある、

とある(仝上)。「芥」は、その実から「からし」をとる、

からしな(辛菜)、

の意である。だから「からし」は、

芥子(かいし)、

と当てる。

その実極めて小なるが故に、転じて極小の喩とす、

とあり(字源)、維摩経に、

以須弥之高廣、内芥子中、無所増減、

とあるとか(仝上)。

罌粟(オウゾク)、

の、「罌」(漢音オウ、呉音ヨウ)は、

会意兼形声。「缶+音符嬰(エイ・オウ まるくとりまくの略体)」、まるいかめ、

で、「腹の部分が大きく、口の部分が小さいかめ」の意である(漢字源)。

「粟」(ゾク、漢音ショク、呉音ソク)は、

会意文字。「西(ばらばらになる)+米」。小さくてぱらぱらした穀物を表す、

とあり(漢字源)、「あわ」の意であるが、小さいものの喩えとして使われる(仝上)。

ヒマラヤケシの一種メコノプシス・アクレアタ.jpg

(ヒマラヤケシの一種メコノプシス・アクレアタ デジタル大辞泉より)

実が瓶のような形をしていてその中に粟粒のような種が入っていて、「けし」の実は小さいので、

罌粟、

と当てて、「けし」と訓ませた(たべもの語源辞典)。

けしつぶ(罌粟粒)のよう、

という使い方をする(仝上)。「罌粟」(オウゾク)というのは、

罌(カメ)の形の如きものあり、芥子殻(けしがら)と云ふ、……罌の中に、粟の如き、極めて細かなる子(ミ)満つ、

とある(大言海)。「芥子殻」は、

棗の實を立てたる如く、頂、菊紋をなす、小児の髪の鬌(スズシロ)の如し、因りて、すずしろを、けしがらあたま、けしぼうずと云ふ、

とある(仝上)。

ケシ坊主(果実)に傷をつけて樹脂を採取する.jpg

(ケシ坊主(果実)に傷をつけて樹脂を採取する https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%82%B7より)

「鬌」(すずしろ、すずじろ)とは、

童子の髪形の一種。頭髪の中央をそり残し、周囲をそり落としたもの、

で、確かに、「罌粟殻」は似ている。

日本には足利時代にインドから津軽地方に伝来したらしく、天保年間(1830~44)には関西地方にも広がり、津軽から全国に広まったため、

ツガル(津軽)、

と当初呼ばれた(たべもの語源辞典・日本語源大辞典)。ただし、当初入ってきたのは、アヘン用のそれではなく、

護摩などにたく香料として、

であり、「胡麻粒」の「芥子」は、後に入ってきた「罌粟」とは別らしい(日本語源広辞典)。源氏物語に、

(六条御息所の着物は)ただの芥子の香にしみかへりたる、

とあり、これは、

邪気を払う護摩のときなどに用いた、

その残り香ということになる(岩波古語辞典)。

「けし」の語源は、

芥子の音カイシを、誤って言ったもの(大言海・和訓栞後編)・日本語の語源、
花が咲くと白くなるところから、ヒラケシロシの略(日本釈名)、
ケ(食)シジム(蹙)の義(名言通)、

とある。漢語の、

解脱(かいだつ)を、ゲダツ、
解毒(かいどく)を、ゲドク、
解熱(かいねつ)

と訓むように、「解」の呉音「ゲ」「ケ」で訓む例は多いので、「芥」の呉音「ケ」と訓むことは大いにあり得る。

しかし、「罌粟」の生態から見ると、「ヒラケシロシ」は、面白い説ではある。

ひらけ白し、

ということは、花を開けば花は白いという意だが、この上方を略して、しらけのケと白しのシで、ケシとしたともいう、

とも説く(たべもの語源辞典)。その謂れは、「罌粟」の花は、

つぼみのときには青い皮があって、ひらいて青い皮が落ちると初めて白くなる。他の花は、つぼみのときから白いものであるが、ケシは違っている、

からである(仝上)。

「ケシ」の若葉は食用にし、茎が10センチくらいのところとって浸し物にする。茎葉が大きくなると阿片汁液を含むので有毒である、

とある(仝上)。

六月の中頃開花するが、アヘンは落花後10日以内に搾収する。種子をとるには落花して20日後に苅取って、これを屋根裏などに干して20間ほど乾燥する。ケシは肺病を治し、腸を温め、風邪によく、熱をさます。また、下痢をとめ、痔にもよい、

と薬効がある。漢方では、

果皮を罌粟穀(おうぞくこく)といって、鎮咳・鎮痛・下痢止めに用いた、

という(仝上)。なお、昔、雪隠にケシの花を画いた屏風を立てたが、ケシの薬効からきているが、「結する」つまり、下痢が治る、の洒落でもあったらしい(仝上)

なお、「芥子」http://ppnetwork.seesaa.net/article/476744145.htmlで書いたように、罌粟(ケシ)が渡来すると、芥子がケシの意味で使われたので、カラシかケシか判断に苦しむ、

とあり(仝上)、江戸時代の料理本に、

芥子、

とあるのは、ほとんどケシのことである(仝上)。そこで、

辛子、

の字を用いるようになった(仝上)。

ヒマラヤケシの一種メコノプシス・ホリドゥラ.jpg

(ヒマラヤケシの一種メコノプシス・ホリドゥラ デジタル大辞泉より)

なお、植物としての「けし」の詳細は、https://www.asgen.co.jp/blog/2014/09/104.htmlに詳しい。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:芥子 罌粟 けし
posted by Toshi at 04:22| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする