2020年09月07日

毛抜き鮓


江戸時代に江戸で名物として謳われた、

江戸三鮨(えどさんすし)、

というのがあった。

毛抜鮓(けぬきすし)、
與兵衛寿司(よへえすし)、
松が鮨(まつがすし)、

である。「毛抜き鮓」は、

元禄一五年(1702)に初代松崎喜右衛門が竈河岸(へっついがし、現在の日本橋人形町二丁目付近)で創業、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E4%B8%89%E9%AE%A8

笹巻鮓、

といって、

握り鮨を一つずつ笹の葉でまいた、

ものを、

毛抜鮓、

といった。

笹の葉で巻いた押し鮨の一種で、保存食とするため、飯を強めの酢でしめているのが特徴、

http://www.eonet.ne.jp/~shoyu/mametisiki/reference-3.html

握り寿司や巻き寿司に比べて歴史が古く、それ以前の押し鮓や馴れ鮓の形態を色濃く残している、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E4%B8%89%E9%AE%A8。江戸時代、

日本橋南伝馬町二丁目富士屋利八、

が、有名であったが、同名の鮓は市中諸所に散在した、

とある(江戸語大辞典)。嘉永六年(1853)の『守貞謾稿』に、

毛ぬきずしと云ふは、握りずしをひとつづつくま笹に巻きて押したり。値一、六文ばかり、毛ぬきずしの他は貴価のもの多く、鮨一つ値四文より五、六十文に至る。天保府命のとき、貴価の鮨を売る者二百余人を捕えて手鎖にす。その後皆、四、八文のみ。府命ゆるみて、近年二十、三十文の鮨を製すものあり、

とありhttp://www.eonet.ne.jp/~shoyu/mametisiki/reference-3.html、調理法は、

すし種を酢飯にのせて笹で巻き、桶に入れて上から重しの石を置く。仕込みの段階で、「毛抜き」をもち使い、魚の小骨を丁寧に抜いたことから「毛抜きすし」と呼ばれた、

とある(仝上)。具体的には、

寿司だねも先ず塩漬けで1日、次に酸味の強い酢(一番酢)で1日、そして酸味の弱い酢(二番酢)で3日から4日も漬ける。これをひとくち大に切ったものを酢飯の上に乗せ、殺菌作用のある笹で圧しながら巻いて空気を抜くことで、さらに保存性を高めている、

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E4%B8%89%E9%AE%A8、大変手間と時間がかかる高級品だったため、当時は大名の藩邸や大身旗本の屋敷などからの進物品としての注文が主だった、ともある(仝上)。しかし、後に調理がより簡略化された握り鮨が現れると、従前との対比でそれは「早ずし」と呼ばれ、庶民から有りがたれるほどだった(仝上)、とされる。

この経緯は、現在でも十二代目松崎喜右衛門が「笹巻けぬきすし総本店」として千代田区神田小川町で、江戸三鮨のなかで、唯一生き残って、営業を続けているhttp://www.kanda-hojinkai.com/information/sinise/sinise09.html「笹巻けぬきすし総本店」の紹介ページhttp://www.ll.em-net.ne.jp/~rumba/kenukisusi.htmlでは、「毛抜き鮓」は、

『守貞謾稿』が「文政ノ末頃ヨリ、戎橋南ニ、松ノ鮓ト号ケ、江戸風ノ握リ鮓ヲ賣ル」と文化文政年間(1804~1829)にとある時代より、百年以上前、戦国の頃に、飯を笹で巻いたものを兵食としたことに着想を得て、元禄十五年(1702)年に創始した、

握り寿司とは別系統のすし、

で、

鯛、こはだ、鯵、さよりなどの季節の魚を1週間ほど塩に漬け、さらに酢でしめたものを、酢の利いた飯と一緒に熊笹で巻いたもの(だから笹巻)。笹で巻くのは防腐のためと、乾燥を防ぐため。早鮨系ですね。しかし三田村鳶魚によれば、早鮨が江戸に広まったのは宝暦年間だとのことですから、当初の笹巻けぬきすしは、「生なれ」の一種だったのかもしれません、

としている古形の鮓、ということになる(仝上)。

笹巻けぬきすし.jpg


「毛抜き鮓」の「毛抜き」の謂れは、

小骨を抜いた、

という説もあるが、その他、

色気抜きで食欲をそそるほど美味いことから転じて、「色気抜き」の色が外れて「気抜き」に「毛抜き」の字が宛てられた、

とするものもあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E4%B8%89%E9%AE%A8。しかし、

よく食うという洒落(たべもの語源辞典)、
うまく食うというしゃれで命名(江戸語大辞典)、

とする、

毛抜きの歯のかみ合わせを言ったもの、よく喰う毛抜きでないと、その用をなさない、

からという(たべもの語源辞典)説が、江戸ッ子の命名らしいのではないか。上方の狂言作者・西沢一鳳が江戸浅草に滞在中に執筆した嘉永三年(1850)の『皇都午睡』(みやこのひるね)にも、

毛抜きは物をよくくわえてつかむものであり、そこから転じて人々がよく食うすしであるという謎かけである、

としているhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E4%B8%89%E9%AE%A8

「笹巻けぬきすし総本店」の紹介ページでは、その謂れを、

「旗本や松平候等幾多の諸侯御来店の折、毛抜にて魚の小骨を抜き鮨を作るを見て『面白きことよ』と興ぜられ、笹巻鮨を毛抜鮨とも呼び益々世に広まりたり」(「江戸名物 笹巻毛抜鮨由来」)ということに由来している、

としつつ、上述の西沢一鳳『皇都午睡』を引き、

「毛抜鮨とは魚の骨をよく抜きたる故呼ぶかと思いしに、よく考へ見れば、よう喰ふとの謎なるべしと悟りぬ」。つまり、毛抜きの縁語である「よく喰う」から発想した、洒落にもとづく、

説も紹介し、

江戸時代の人はひげをそる(江戸の訛りだと「する」。また、「する」を嫌って「あたる」と言った)と、ちくちくするのでこれを嫌い、毛抜きで抜きましたが、この毛抜きでひげを挟んでひっこ抜くことを、「毛抜きがひげを喰う」と言ったのです。落語「道具屋」にも、「(ふっと毛を吹いて、毛抜きの先を払い)こりゃ、よく食うぜ」という台詞があります、

と絵解きしている。江戸ッ子らしい、この説に与したい。

なお、江戸三鮨の残りのひとつは、

流行鮓屋町々在、此頃新開兩國東、路地奥名與兵衛、客來争坐二間中、

と紹介されたhttp://www.eonet.ne.jp/~shoyu/mametisiki/reference-3.html與兵衛寿司は、

文政七年(1824)に両国尾上町(東両国)回向院前に小泉与兵衛が華屋の屋号で創業、大繁盛した。すしにワサビを使ったのはこの華屋与兵衛が最初なので、一般には与兵衛寿司が握り寿司の嚆矢とみなされている。華屋の流れを汲む両国与兵衛寿司は維新後も明治から大正にかけて営業していたが、関東大震災以後没落し、昭和5年(1930年)に閉店している、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E4%B8%89%E9%AE%A8

いまひとつは、『守貞謾稿』に、

江戸鮓に名あるは、本所阿武蔵の阿武松(あたけまつ)のすし、上略して松のすしと云ふ、天保以来は店を浅草第六天前に遷す、また呉服橋外に同店を出す、

と、紹介されたhttp://www.eonet.ne.jp/~shoyu/mametisiki/reference-3.html松が鮨は、

文政一三年(1830)、深川の安宅六間堀(現在の新大橋近く)に堺屋松五郎が創業。地名から安宅の鮓(あたかのすし)とも呼ばれた。玉子は金の如く、魚は水晶のようだと、その華麗な色彩感がたちまち評判となり、権家の進物品として引っ張りだことなった。やがて江戸中で最も贅沢な寿司であると謳われるようになり、そのあまりの贅沢ぶりから天保の改革で水野忠邦の発した倹約令に触れて、与兵衛寿司とともに処罰を受けている。「松ヶ鮓一分ぺろりと猫がくひ」などと当時の川柳にも詠まれているほか、歌川国芳による大判錦絵「縞揃女弁慶 松の鮨」にも握り寿司と押し鮓が描かれている、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E4%B8%89%E9%AE%A8

歌川国芳「縞揃女弁慶 松の鮨」.jpg

(歌川国芳「縞揃女弁慶 松の鮨」 https://www.syokubunka.or.jp/gallery/nishikie/detail/post138.htmlより)

なお、江戸時代後期の国学者で考証学者でもある喜多村筠庭は、諸書から江戸の社会風俗全般の記事を集めて類別した文政一三年(1830)刊の随筆集『嬉遊笑覧』には、握り寿司の考案者は華屋与兵衛ではなく堺屋松五郎だとしている、とある(仝上)。

「すし」に関連しては、「すし」http://ppnetwork.seesaa.net/article/456254952.html?1599426384、「いなりずし」http://ppnetwork.seesaa.net/article/469221526.html、「飯鮨」http://ppnetwork.seesaa.net/article/475973752.html、「一夜鮨」http://ppnetwork.seesaa.net/article/475989654.html、で、それぞれ触れた。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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