2020年09月09日

他山の石


「他山の石」は、

他山の石とする、

といった使い方をする。

他人のつまらない言動も、自分の才能や人格を磨く材料とすること ができるというたとえ、

として使う。『詩経』小雅、鶴鳴の、

他山の石、可以攻(おさむ)玉、

からきている。

他の山から出る粗悪の石も、以て我が玉を磨くに足る如く、不善の人も、善人の徳器を成すの具たるに喩ふ、

とある(漢字源)ので、自分を宝石と見、相手を自分の玉を磨く役に立つ、という意味なので、この言葉の含意には、

質の悪い石でも玉を磨くのに役立つということから(デジタル大辞泉)、
自分よりも劣っている人の言動も自分の知徳を磨く助けとすることが出来る(広辞苑)、

があり、基本的には、

悪口、

であり(とっさの日本語便利帳)、

人前(ましてや本人の前)、
や、
目上の人や先輩、

に言うべき言葉ではない。同義語になる、

殷鑑遠からず、
前車の覆るは後車の戒め、
覆轍、
反面教師、

というのは近いが、

上手は下手の手本下手は上手の手本、
人の振り見て我が振り直せ、
人の上見て我が身を思え、
人を以て鑑と為す、

という、手本とか鑑という含意は全くない。どちらかというと、

燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、

といった上から目線である。大言海に、

他の山より出でし石にも、我が玉は磨き得べしとの義、轉じて、外の物に接して、自己の品性を陶冶するに云ふ語、

とあるように、轉じたとしても含意は変わらない気がする。集義和書(1676頃)には、

他山の石はあらきが故に、よく玉をみがくといへり。君子の徳を大にするものは小人也、

とあり(精選版日本国語大辞典)、

自分の石をみがくのに役にたつ、

という意味は通底している、とみていい。

文化庁が発表した平成25年度「国語に関する世論調査」で「他山の石」の意味について、

「他人の間違った言行も自分の行いの参考となる」30.8%、

に対して、

「他人の良い言行は自分の行いの手本となる」22.6%、

と「手本」と見る回答が、その前の調査よりも増えている(2004年調査では18.1%)。特に、

「どちらの意味でも使わない」22.4%、
「分からない」27.2%、

から見ると、若い世代では、誤用が目立つといい、『広辞苑』第6版(2008年)では、

「本来、目上の人の言行について、また、手本となる言行の意では使わない」

と付記しており、

類似した意味の「人のふり見て我がふり直せ」が文字通りの意味で了解できるのに対し、「他山の石」は知識がないと意味が了解できないため、使われる機会が減っており、正しく理解する者が世代が下がるにつれ減っているのではないか、

という分析がある(文化庁文化部国語課)が、どちらかというと、みずからを、

君子、

あるいは、

士大夫、

として、その人格形成の視点から見た、

他山の石、

という言葉自体は、一般化して、

他人のつまらない言行、誤りや失敗なども、自分を磨く助けとなる、

としてしまえば、

棘なき薔薇、

になってしまう気がする。ある意味、

他山の石、

は、強烈な自恃あるが故に生きる言葉なのではないか。

参考文献;
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:他山の石
posted by Toshi at 04:28| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする