2020年09月11日

戦争の技術


二木謙一『合戦の文化史』を読む。

合戦の文化史.jpg


本書は、もともとは、「合戦の舞台裏」というタイトルであったらしい。「舞台裏」には違いないが、どちらかというと、

武具、
兵器、

の推移を辿っているので、「文化史」という雰囲気はない。むしろ、軍事技術史、といった感じではあるまいか。

本書を読んで、面白いことに気づいた。ひとつは、

日本の技術革新、

の特徴である。それは、ほとんど伝来技術によってスタートする。例えば、武器は、日本は世界史レベルからかなり遅く、

「ふつうはまず木・石製にはじまり、ついで銅・青銅製に移り、そして鉄器という順序に発達している。しかも多くの国では千年または千五百年という長い青銅器時代がある。ところが日本では、このいわゆる青銅器時代はなく、木・石器時代から、いきなり青銅・鉄器がほとんど同時にもたらされ、その後も超スピードで鉄器時代に進んでいるのである」

と、いわば文明国ではない故の、おくれてのスタートなのだが、

「弥生式時代から古墳時代にかけての数百年の間に、武器の製造や使用法も急速な発達をとげ」

て、

「四世紀のころには種々の武器を製造する鍛冶部があらわれ、七世紀ごろになると、逆に中国や朝鮮に対して日本製の武器が多量に輸出されるまでになっていた」

という、

「またたく間に外来文化を模倣し、さらに独自のものまでを創造する」

という特徴が武器でも表れていることである。

「中世倭人伝」http://ppnetwork.seesaa.net/article/477185272.html?1599079456によると、16世紀半ば、

灰吹き法、

という画期的な銀精錬技術を密かに伝習して、それまで輸入品であった銀を、大量の密輸品として朝鮮に輸出するに至り、朝鮮側は、

「倭国の銀を造ること、未だ十年に及ばざるに、我国に流布し、已に賎物(ありふれた物)となる」と述べせしめた。正当な伝来ではなく、そのために朝鮮人が罪に問われたほどなのに、日本は、この技術によって、17世紀には、世界の銀生産量の三分の一を占めるに至るのである。ここにも、技術革新のコアを模倣する力を見ることが出来る。しかし、銀の精製法の革新である、電解精錬を、日本が開発したということはない。

さらに、種子島経由で伝来した火縄銃でも同じことが起きている。

鉄砲伝来は天文十二(1543)年であるが、

「日本の戦国大名らは、またたく間に鉄炮と火薬の製法を学んで、新兵器として活用することに成功したのである。信長が長篠合戦ではじめて鉄炮の組織的活用をおこなったのは天正三(1575)年だが、それから二十五年後の関ケ原合戦のころには鉄炮は主力兵器となっていた」

のであり、戦国時代末期には、

日本は50万丁以上を所持していたともいわれ、当時世界最大の銃保有国、

であった、とされる。しかし、その後三百年、江戸末期に、ゲーベル銃がもたらされるまで、

火縄式、

が改められることはなく、結局外国製の、

ゲーベル銃、
メニエー銃、

が輸入されるまで、

燧石式、
も、
雷管式、
も、

まして、

後装施条銃(ライフル)、

も開発できなかったのである。

こうした日本の軍事技術開発の桎梏には、もうひとつ大きな敗因がある。それは、

兵法、

の無いことである。兵法學は、

甲州流、
越後流、
北條流、

等々あるが、

甲陽軍鑑、

を代表とする、その著作は、

「孫呉の兵法や『平家物語』『太平記』など戦陣の物語をもとに、陰陽五行や天象方位をまじえて適宜につくりあげたものであり、…しょせんは泰平の世の軍学者が考えだしたもので、現実味に乏しい」

つまりは、

虚構の兵法、

にすぎず、一人の孫子http://ppnetwork.seesaa.net/article/452854042.htmlも、ひとりのクラウゼヴィッhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/449836582.htmlも生み出さなかった。戦術レベルではなく、戦略レベルの戦争論は、以後今日まで、日本では、論じられたことはないし、広くそうしたソフトウエア全般については、日本には一つも世界基準となるものを生み出せていない。旧軍部の参謀本部自体が、甫庵信長記の創作をもとに、桶狭間等々の戦術を研究していたのであるから、噴飯物で、とてもアメリカ相手に勝てるはずはないのである。『甫庵信長記』の捏造については、「信長の戦争」http://ppnetwork.seesaa.net/article/476999882.htmlで触れた。

参考文献;
二木謙一『合戦の文化史』(講談社学術文庫)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:25| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする