2020年10月02日
ことぶき
「ことぶき」は、
寿(壽)、
と当てる。「ことぶき」は、
言葉で祝うこと、また、そのことば、
であり、
ことほぎ、
ほぎごと、
の意である。「ことぶき」は、
ことほぎの転訛、
とされるには理由がある。そこから、
長命、
の意に転じ、
祝い、
祝言、
の意へと転じた(「祝言」は更に、結婚の意に広がる)。「ことぶき」の、
「こと」は「言」、「ほき(ほぎ)」は動詞「祝く(ほく)」の連用形。 平安時代以降、「ことほく」から「寿ぐ・ 言祝ぐ(ことほぐ)」や「寿く(ことぶく)」とも言うようになり、「ことぶく」の連用形が名詞化して「ことぶき」になった。「ほく」は「祝福する」意味の動詞であるが、「祈って幸福を招く」といった意味が強く、「ことほき」も言葉によって幸福を招き入れる、言葉によって現実をあやつる、といった、日本古代の言霊思想が反映された言葉であった、
とある(語源由来辞典・由来・語源辞典)。
「寿(壽)」(漢音シュウ、呉音ジュ)は、
会意兼形声。下部は、長く曲がって続く田畑の中のあぜ道をあらわし、長い意を含む(音トン、チュン)。壽はそれを音符とし、老人を示す上部を加えた字で、老人の長命をしめす、
とあり(漢字源)、「上寿」とか「仁者寿」と、「長命」の意である。さらに、「長寿」というように「歳」の意、さらに、「寿辰」(ジュシン 老人の誕生日)というように、「年長の人に対する長命の祝い」の意である。だから、
壽(ジュ)に、長命(ながいき)の義あり、祝賀(ことぶき)の義あり、長命を、ことぶきとするは、訓を誤り移して云ふなり(奏舞(かなつ)の、奏樂(かなづ)に移れるが如し)、
とする(大言海)わけである。「壽」(ジュ)の項で、さらに、
節文「壽、久也、凡、年齒(よはひ)皆曰壽」、後漢書、明帝紀、註「壽者、人之所欲、故、卑下奉觴進酒、皆、言上壽」、第三義の祝賀の意を、ことぶきと云ふより、字、同じければ、遂に、第二義の年齢をも、誤りて、ことぶきとは云ふならん、
と説明する(大言海)。大言海は、「壽」の意を、「ながいき」「年齢」「福寿」と上げている。
「ことほぐ」は、古くは、
ことほく、
であり、
言祝く、
寿く、
と当てる。「ことほぐ」の「ほぐ」は、古くは、
ほく、
で、
祝く、
壽く、
と当て、
良い結果があるように、祝い言を言う、
意である(岩波古語辞典)。これは、
褒むに通ず、
とある(大言海)。
ほさく(祝)、
意でもある。「ほさく」には、
祝い事を言う、
意と、
呪言を言う、
意があり、この意が転じて、
他人を罵って言う語(「名残惜しいとほざく戯女」)、
や
他人の行為を罵って言う語、しくさる、けつかる(「さては盗みほざいたな」)、
の意で使われ、今日、
勝手なことを言う、
意の、
ほざく、
につながっているように思える(岩波古語辞典・日本語源大辞典)。ただ、
自慢らしく語る、
意の、
ほたく(嘐)の転訛という説もあるが。
「呪う」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/403152541.html)で触れたことだが、「呪う」は、語源的には、
「祈る(ノル)」+「ふ」
で、基本は、「祈る」の延長線上にある。
祈り続ける、
には違いないが、
相手に災いがあるように祈りつづける、
ということである。「のろう」は、
呪、
詛、
咒、
と当てる(岩波古語辞典)。「呪」は、
口+兄
で、もともとは、「祈」と同じで、
神前で祈りの文句を称えること
なのだが、後、「祈」は、
幸いを祈る場合、
「呪」は、
不幸を祈る場合、
と分用されるようになった(漢字源)。「詛」の、
且
は、俎(積み重ねた供えの肉)や阻(石を積み重ねて邪魔をする)を示す。「詛」は、その流れで、
言葉を重ねて神に祈ったり誓ったりすること、
の意味だ(仝上)。どちらも、神に祈る行為の延長線上で、
自分の幸、
ではなく、
他人の不幸
を祈るところへシフトする。しかも、
他人の不幸を実現することで自分の幸を実現しようとする、
という、屈折した祈りだ。
「のろう」(呪う・詛う)は、
ノル(告)反復・継続の接尾語ヒの付いた形(岩波古語辞典)、
祈る(いのる)の上略延(大言海)、
ノル(宣)の義(名言通・日本古語大辞典=松岡静雄・語源辞典・形容詞篇=吉田金彦)、
等々であり、「祝く」も「呪う」も、
神に祝詞を告げて祈る、
ことに変わりはない。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95