2020年10月05日

磯辺


「磯辺(邊)」は、

磯の辺(ほと)り、

で、

磯のほとり、
いそばた(磯端)、

の意であるが、

磯辺和え、
磯辺餅、
磯辺揚げ、
磯辺巻き、

等々、海苔を用いる料理・菓子、

に使う(大辞林)。単に、

磯、

ということもある

「磯」(漢音キ、呉音ケ)は、

会意兼形声。「石+音符幾(近い、すれすれ)」で、水際に近い石、また波にもまれて擦り減る石、

の意であり、

水が石に激しくあたる、
石が流れに現われる川原、水際の石の多いところ、

と、あくまで「石」の意である。

中国南北朝時代(543年)の梁の顧野王によって編纂された部首別漢字字典『玉篇』(ぎょくへん、ごくへん)に、

磯、水中磧(イシハラ)、

とあり、

本邦の古書に多く、礒字を用ゐたり、唐韻「礒(ギ)、石巌也」などあるより通用したものなるか、

とある(大言海)ので、「磯」の原義を知っているものは「礒」の字を当てた物かと思われる。

万葉集では、

白真弓(しらまゆみ)石邊(いそべ)の山の常盤なる生命なれやも戀つつ居らむ

と、「石邊」と当てていた。それは、和語「いそ」の語源が、

イシ(石)・イサゴ(砂・砂子)と同源(岩波古語辞典)、
イシ(石)の転(南留別志・俚言集覧・和訓栞・大言海)、
イソ(石)から出た語(万葉集講義=折口信夫)、
イソ(石添)の義(桑家漢語抄・和句解・日本釈名)、
イソ(石所)の義(言元梯)、

等々「石」とつながっているためかと、思われる。

だから、

水辺の石、

岩の多い水辺、

沖に対して浅近なこと、

水辺の波打ち際、

と、

いそ、

の意で、

荒磯(あらいそ)、

というように、

海や湖の波打ち際、

の意へと転じてきたが、これは我国だけである。この、

波打ち際、

の含意がなければ、

海苔を添えて用いる料理、

の意にはつながらなかったろう。

磯で採れたものを使った料理に、

磯辺、

の名をつけ、

海苔を使った料理に用いられてきた。

磯辺焼は、

餅を焼き、砂糖、しょうゆを用い、のりで巻いたもの、

磯辺揚げは、

材料に衣をつけ、焼きのりを細かくしてふりかけてから揚げるもの、材料をのりで包んでから衣をつけて揚げるものがある。また小麦粉に卵と水を加えて揚げ物の衣をつくり、その中に焼きのりを細かくして加え、揚げる場合もある、

とある(日本大百科全書)。

磯辺煮は、

白魚やエビ・イカなどを塩・酒・醤油でうす味に煮て、水ときした葛をときこみ、ドロリとさせ、火からおろして、もみのりをかけたもの、

とある(たべもの語源辞典)。

磯辺という料理は、

のりの香りと味をほのかに楽しむのが目的であるから、上等ののりを用いないと特徴が出ない。ときには香りのよい青のりを用いることもあり、生(なま)のりを使用することもある、

とある(日本大百科全書)。

里芋のいそべ餅.jpg

(里芋のいそべ餅風 https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1240022412/より)

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:38| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする