2020年10月26日

トンチキ


「インチキ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/478098657.html?1603567899で触れたように、

トンチキは「頓的(とんてき:バカみたいだ)」、ヘンチキは「変的(へんてき:ヘンだ)」が変化したものと見られる、

とある(笑える国語辞典)が、「トンチキ」を考えていくと、別の可能性もあると気づく。

「トンチキ」は、

頓痴気、

とも当てる。

まぬけ、
のろま、
とんま、

等々、人を罵って言う語である(広辞苑)。類語に、「トンテキ」がある。「トンテキ」は、

頓敵、
頓的、

と当てる(仝上)。

思慮のない軽はずみなこと、
ひょうきんなこと、
まぬけなこと、

とある(仝上)。微妙な意味差がありそうだが、これだけではわからない。大言海は、「トンチキ」を、

役に立たぬこと、
氣轉のきかぬひと、
とんま、
まぬけ、

とし、「トンテキ」を、

とびあがりもの、
へうきんもの、

としているので、どうやら、

剽軽さ、

に意味のウエイトがあるようだ。それが転じて、

まぬけ、

の意になったとみられる。延寶年間(1673~81)『吉原失墜』に、

本庄下谷の住人ともなり、すぐれたる勇気のとんてきどもなり、

とあり、貞享年間(1684‐88)の江戸で頻発した大火の見聞記『天和笑委集』に、

元來此男、心あくまで軽く、しかもとんてきにして、憂き知らぬ者、

るので、当初は、必ずしも貶める意味だけではなかったように感じる。

「トンテキ」は、

頓的、

と当てるので、「インチキ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/478098657.html?1603567899で触れた、「ヘンチキ」が、

「変的(へんてき)」が変化、

に当たる説と同類とみていい。しかし、「トンテキ」(頓的)という言葉が残っている以上、「トンチキ」が、

頓的、

の転訛と見る(暮らしのことば語源辞典)としてしまっていいかどうか。で、「トンチキ」は、

擬人名詞「とん吉」のキチを逆倒した語、こん吉をこんちきという類(江戸語大辞典・広辞苑)、
トン(とんま)+チキ(接尾語)(日本語源広辞典)、

とする説がある。ただ、「チキ」は、「的」の転訛とみると、後者の説は、「トンテキ」の転訛と同じことになる。だから、「トンチキ」の由来は、

トンテキ(頓的)→トンチキ、
とん吉→トンチキ、

のいずれかということになる。

「トンチキ」は、ことばの由来がはっきりしている。

芝居者隠語由来で、明和の初め頃(1764~72)から流行語となった、

とある(江戸語大辞典)。

とんま、
まぬけ、

の意で、

とんちきとは、役に立たぬたはけの事(安永五年(1776)風俗問答)、

とし、

漢土(から)の廃人(とんちき)は菽(まめ)と麦とを分かたず、此方(こっち)の愚鈍(へんてこ)はあざとすべたを知らず、

の用例があり、さらに、

深川の岡場所語、きざな半可通や野暮な客を罵って言う語、

となり、他の岡場所にも広がり、当初の意と重なった、とある(仝上)。

ひやうたくれ、惡敷客を云(好ましくない客の意。明和七年(1770)『辰巳之園』)、

とあり、

ままここらへきてまはされるやうなとんちきじやァねへ(安永八年(1779)『駅舎三友』)、

という用例がある。さらに、意味は、

飛んだ、

という意になり、

ヲやヲやとんちき大さわぎだ(天明八年(1788)『女郎買之糠味噌汁』)、

といった副詞的な使い方に転じている。

ただ、「トンチキ」の用例を見る限り、「トンテキ」が江戸初期に比べて、百年位遅い時代になっている。そう考えると、他の

コンチキ、
ヘンチキ、

のチキ、また、

ポンツク、
ケンツク、

のツクと同類の使い方とみるなら、「トンチキ」だけが、

とん吉→トンキチ、

というよりは、やはり、

トンテキ(頓的)→トンチキ、

とみるのが妥当な気がしてならない。

高慢ちき、

の「チキ」でもあるが、

「てき」(てき)の転訛、

である。「的」は、

中国語の「的」(助詞「の」にあたる)をそのまま音読した語、

であり(広辞苑)、

名詞に添えて、その性質を帯びる、その状態をなす意を表す、

とある(仝上)。大言海は、

支那宋元以後の小説などに用ゐられし俗語、驀地、怪底などの、地、底と同意の語なり、

とある。で、

に就いての、上、
~の振り、風、
の如き、様、

といった意味である。たとえば、「底」は、宋・元時代の俗語で、

~の、という意味を表す(自然底事)、

とある(漢字源)。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:30| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする