2020年11月28日

石榴口


「石榴口(ざくろぐち)」は、

江戸時代の銭湯の湯船の入り口。湯のさめるのを防ぐために、湯船の前部を板戸で深くおおったもの。身体を屈めて中に入る、

とある(広辞苑)。で、

石榴の実の酢は鏡の金属面を磨く料となるから、「屈み入る」と「鏡要る」とを掛けた名という、

とある(仝上・醒睡笑(せいすいしょう)・大言海)。「鏡要る」は「鏡鋳る」とも当てている。『嬉遊笑覧』にも、

常にたくを風呂といいて、あけの戸なきを石榴風呂とは、かがみいるとの心なり。鏡を磨くに石榴の酢を用ゆ、

とあり、

「富山県の農民にはこれ(鏡磨き)が大事な副業で、農閑期になると鏡磨きの旅に出た」

という(今野信雄『江戸の風呂』)。しかし、

湯屋に入る姿が蛇に呑み込まれるようなので「蛇喰口(じゃくろうくち)」が転訛した、

とする異説もある。

『職人尽絵詞』鍬形蕙斎(右下は上がり湯、湯船は中央奧にあり見えない).jpg

(鍬形蕙斎『職人尽絵詞』 (右下は上がり湯、湯船は中央奧にあり見えない)  https://cleanup.jp/life/edo/77.shtmlより)

ただ、銭湯は、関西では、

風呂屋、

といい、江戸では、

湯屋、

といった(仝上)。当初は、

蒸(むし)風呂、

で、「むし」がとれて「風呂」になった。今日のように、首までつかる「洗湯(あらいゆ)」になったのは、江戸も後期になってからである(仝上)。当初は、

戸棚風呂、

といい、

「蒸風呂と洗湯を兼ねた湯槽で、洗い場で引き戸をあけて中へ入り,また引戸を閉める。つまり戸棚に隠れるような感じで,中の湯は一尺(約三十センチ)ほどしかない。だから腰だけ下が湯につかるだけだ。これを戸棚風呂といったが,引戸が板だから別名を板風呂といった。しかし引戸が閉めてあるから,内部は蒸気でむんむんする」

スタイルであった(仝上)が、江戸中期以降になると、

石榴風呂(ざくろぶろ)、

というものに変わる。客足がふえれば、引戸の開閉ごとに蒸気は外へ逃げることになり、第一その都度開閉するのは面倒だし、占めるのを忘れるものも出る(仝上)というので、燃料不足と水不足がある、という背景もあり、

「片方の引戸を固定し、反対側の引戸は下の方一メートルほど開けはなしにして、ここをくぐるようにした」

のである。入り口は、

関西の方が入口は高かった、

ともある(仝上)。「石榴口」は、

破風造りの屋根か鳥居がついており、両側の柱はうるし塗りで、そこに金ぴかの真鍮飾りがついている、

という。この「破風造り」が、後の、古い銭湯の入り口が、

破風造り、

になっていることとつながっているらしい(仝上)。

銭湯の入り口.jpg

(銭湯の入り口 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8A%AD%E6%B9%AFより)

戸棚風呂も石榴風呂も、内部は暗く。

「一尺四方の小窓があるだけで、入口からさしこむ光線も、湯気のために奥まで届かず、石榴口をくぐって湯槽につかるときは、前をおさえ、『田舎者でござい。冷物(ひえもの)でござい、ご免なさいといい、あるいは、お早い、お先へと演(の)べ、あるいはお静かに、おゆるりなどという類い、すなわち礼なり』(浮世風呂)」、

とある(仝上)。しかし、銭湯は安く据え置かれ,寛永元年(1624)から明和九年(1772)まで,六文のままなのである。寛永の頃を百とすると,明和では三百,三倍の物価という。

一日に薪一本除けて焚けば,三百六十本虚(むだ)に焚く,
一本疏(おろそ)かにせざれば数日を助く,況や一生数年の損をや,

等々と「湯語教」という湯屋経営の教科書に載る。『浮世風呂』刊行の前年、文化五年(1808)、

湯屋十組仲間が誕生した時には、男風呂141株、女風呂11株、男女両風呂371株、合計523株、

あり、一町(60間、約109メートル)に二軒宛、

湯屋があったことになる。

石榴口.bmp

(石榴口 精選版日本国語大辞典より)

なお、
「風呂」http://ppnetwork.seesaa.net/article/461438920.html
「江戸の風呂」http://ppnetwork.seesaa.net/article/461421912.html
については触れた。

参考文献;
今野信雄『江戸の風呂』(新潮選書)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:石榴口
posted by Toshi at 04:49| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする