「坐禅豆」は、
ざぜんまめ、
と訓むが、
ざぜまめ、
とも言う(広辞苑)。
黒豆を甘く煮しめたもの。坐禅の際、小便を止めるために食べる習わしがあったことから、この名を得た、
という(仝上)。黒大豆は、
大豆の豊富な健康機能性成分に加え、ポリフェノールの一種、アントシアニンも含まれるため、夜間頻尿の改善にも役立つらしい、
とある(http://brandnewfunk.blog.fc2.com/blog-entry-149.html)。もともとは、岩手県で採れる、俗に、
雁喰い豆(がんくいまめ)、
を指した、ともある(http://www.shiba-shinise.com/column/tamakiya01.html)。だから、
僧侶が座禅を組む時に食べた、
とする説の他に、
雁喰い豆の形が座禅の組足に似ているからその名がついた、
とする説もある(仝上)。
「雁喰い豆」は、
黒い平べったい黒豆で、豆の腹に付いたスジが特徴です。通常1~3本程度あるこのスジが鳥(雁)がくちばしでつついたような跡に見えたり、同じく鳥(雁)が歩いた跡のような足跡にたとえて、雁喰い豆と呼ばれる、
とある(https://www.kenkoutuuhan.com/gankui_ad1.html)。
東北地方でも岩手県や山形県などの一部の地域で作られている大豆です。その地方にもともとある在来の大豆(通常は地大豆と呼ばれる)、
である(仝上)。
「坐禅豆」は、
天明(1781~89)のころには煮豆屋が坐禅豆という名で黒豆を煮て売り、大流行した、
とある(たべもの語源辞典)。
「ザゼン、ザゼン」と江戸市中を天秤担ぎながら行商して歩いた、
とある(http://www.shiba-shinise.com/column/tamakiya01.html)のはそれである。ただ、
甘く煮た黒豆は江戸時代から有名な料理茶屋の八百善が始めた、
と言う説もあるらしい(https://www.videlicio.us/CULTURE/CYFQrqnQ)。
異説に、「坐禅豆」は、
「座禅納豆」と呼ばれ、唐納豆や寺納豆など、大豆を塩と麹で発酵させ、その後乾燥させて作られたものです。小用を遠ざける効果があったとされ、僧が座禅をする時に食べたため、この名前が付いたようです、
とある(https://www.videlicio.us/CULTURE/CYFQrqnQ)が、これは、
坐禅納豆、
と呼ばれた、
浜納豆、
を指す(たべもの語源辞典)のではないか。「寺納豆」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/473658590.html)で触れたように、「浜納豆」は、今日の「納豆」、つまり、
糸引き納豆、
とは別種で、
塩辛納豆、
寺納豆、
大徳寺納豆、
唐納豆、
等々とも呼ばれたものだ。大言海も、「坐禅納豆」の項で、
坐禅する僧、これを食へば、小便を止むると云ふ、法論味噌(ほふろみそ)も然り、
とし、
浜納豆、
のことだとしている。そして、「坐禅豆」の項では、
坐禅納豆と同じ、
としつつ、
今日東京では黒大豆を煮て、砂糖、醤油にて甘く煮しめたるものを云ふ、
としている。江戸語大辞典も、すでに、
黒大豆を甘く煮しめたもの、
としている。ただ、
僧が坐禅の時、小便を少なくするために食うのでいう、
とも、
坐禅納豆の名を真似たもの、
ともいうともあり、
ここの坐禅豆は、さりとは能い(明和八年(1771)「遊婦多数奇」)
の用例が載る。とすると、一つの考え方は、いずれの時点かまでは、
坐禅豆、
は、
浜納豆、
と同じだった、ということが考えられる。で、それを真似て、黒大豆を煮しめたものを、
坐禅豆、
と名づけた、ということになる。砂糖(http://ppnetwork.seesaa.net/article/474151591.html)で触れたように、吉宗が享保の改革において全国にサトウキビの栽培を奨励し、とくに高松藩主松平頼恭がサトウキビ栽培を奨励し、天保期(1830~44)に国産白砂糖流通量の6割を占めるまでになって、砂糖が流通する以降かと思われる。だから、元禄八年(1695)の『本朝食鑑』の黒大豆の項に、
醤油や味噌を作るのには用いず、薬酒や納豆を作るものが多かった、
とある(https://www.videlicio.us/CULTURE/CYFQrqnQ)。この時点は、浜納豆のようである。享保一五年(1730)『料理網目調味抄』に、「坐禅豆」は、
硬く煮るは豆を布巾にて拭きて、生漿にて炭火にて煮るくろ豆は丹波笹山名物なり、
とあるらしく(仝上)、「漿」は「漿油(しやうゆふ)」とされている(仝上)が、まだ甘くする砂糖は使われていない。しかし、
煮て乾燥させたものから、次第に豆を煮たものへ、
と変わりつつある(仝上)、と見ることができる。「黒豆」も、
丹波笹山産、
とある。ブランドにこだわり出している。江戸時代から、兵庫県丹波篠山市付近より選抜育成された
丹波黒、
は、京都府京丹波町の、
和知黒、
とともに、代表的な品種である(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%92%E8%B1%86)。
今日、「坐禅豆」は、
熊本の郷土料理、
として知られる煮豆である。豆がしわしわで硬いのが特徴、とか。
(熊本の郷土料理「ざぜん豆(座禅豆)」 https://cookpad.com/recipe/3935217より)
なお、「坐禅」の名のつくものに、
坐禅草、
というのがある。
仏像の光背に似た形の花弁の重なりが僧侶が座禅を組む姿に見える、
のが、名称の由来とされ、花を達磨大師の座禅する姿に見立てて、
ダルマソウ(達磨草)、
とも呼ぶ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B6%E3%82%BC%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%82%A6)。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95