2020年12月14日

こなみ


「こなみ」

は、

前妻、
嫡妻、

と当て、

後妻、
次妻、

とあてる「うはなり」の対とされる(岩波古語辞典)。「こなみ(前妻)」「うはなり(後妻)」は、『古事記』神武紀に、

宇陀(うだ)の 高城(たかき)に 鴫罠(しぎわな)張る 我が待つや 鴫は障(さや)らず いすくはし 鯨障(さや)る 前妻(こなみ)が 菜乞はさば 立そばの 実の無けくを こきしひゑね 後妻(うはなり)が 菜乞はさば いちさかき 実の多けくを こきだひゑね ええ しやこしや こはいのごふぞ ああ しやこしや こはあざわらふぞ、

と詠われている。因みに、日本書紀では、神武の皇后は、

媛蹈鞴五十鈴媛命(ひめたたらいすずひめのみこと、記;比売多多良伊須気余理比売(ひめたたらいすけよりひる))、

妃は、

吾平津媛(あいらつひめ、記;阿比良比売(あひらひめ))、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E6%AD%A6%E5%A4%A9%E7%9A%87

「こなみ」は、

一夫多妻のころの制度で、先に結婚した妻。前妻または本妻、

で(広辞苑・デジタル大辞泉)、和名抄には、

前妻、毛止豆女、一云古奈美(こなみ)、

とあり(岩波古語辞典)、別に、

もとつめ、
むかひめ、

ともいったらしい(大言海)。

「うはなり」は、

あとに迎えた妻。上代は前妻または本妻以外の妻をいい、のちには再婚の妻をいう、

とあり(デジタル大辞泉)、

第二夫人や、めかけなどを云うことが多い、

とある(岩波古語辞典)。和名抄には、

後妻、宇波奈利、

とある(仝上)。

古へは、妻、二人を持ちて、二妻(ふたつま)とも云ひき、本妻(こなみ)の、次妻(うはなり)に対する嫉妬を、うはなりねたみと云ひ、打ちたたくをうはなりうちと云へり、

とある(大言海)。

山彦冊子に、コナミは、着馴妻(こなれめ)の轉(着物、ころも。雀、すずみ)。ウハナリは上委積妻(ウハナハリメ)の轉(なげかはし、なげかし)。古へ、二妻(ふたづま)を、衣を、二重着るに譬えたり、とあり(和訓栞、コナミ「熟妻(こなめ)、或は、モトツメと読めり」、ウハナリ「ウハは、重なる義也、ナリは並(ならび)の義、ラ、ビの反(かえし)、リ」)。仁徳紀廿二年正月、「天皇納八田皇女将為妃、皇后御歌『夏蟲の譬務始(ヒムシ 夏蠶(ナツコ))の衣二重着て隠み宿りは豈良くもあらず』、萬葉集「おおよそに吾し思はば下に着て馴れにし衣を取りて着めやも」「紅の濃染の衣下に着て、上らに取り着ば言成さむかも」。何れも、二妻のことを云へりなりと云ふ、

とあり(大言海)、「こなみ」「うはなり」ともに、着物に喩えた、と見る。「うはなり」の「うは」は、

ウハヲ(上夫)・ウハミ(褶)・ウハ(上)などのウハと同根、後から加えられるものの意、

とあり(岩波古語辞典)、

うはづつみ(上包)、
うはつゆ(上露)、
うはぬり(上塗り)

等々同趣の言葉が多く、これは、重ねるという意味にもなり、同趣の説が多い。

ウヘニアリ(上在)の転(名語記・俚言集覧)、
後にきてウヘ(上)ニナルという意か(和句解)、
ウハは上で、重なる意。ナリは並の義(和訓栞・名言通・日本語源=賀茂百樹)、
ウハ(上)ナリ‐メ(女)の略。ウハナルは下に着た着物の上にもう一重重ねる義(山彦冊子)、
ウハナリ(上也)の義(言元梯)、
ウハは後の意(古事記傳)、

しかし、「なり」の説明が得心がいかない。単純に考えれば、

上成、

なのだが、そうあけすけには言うまいから、

ならぶ(並)、

が妥当なのかもしれない。

「後夫」は、

宇波乎(ウハヲ 上夫)、

というのに対して、前夫は、

之太乎(したを 下夫)、

とわかりやすい言い方になっているが、「こなみ」(前妻)については、

こなため(此方女)の義(名言通)、
コノカミノメの略(和訓集説)、
キナレメ(着馴女)の転(山彦冊子)、
こなめ(熟女)の転(和訓栞)、

等々と諸説苦戦している。唯一、

コヌアミの約。アミは日鮮満蒙を通じて女性の総称。朝鮮語に、嫡室を意味するKŭnömiがある(日鮮同祖論=金沢庄三郎・国語學通論=金沢庄三郎)、

というのが着目されるが、「こなみ」だけが、朝鮮語由来というのは、腑に落ちない。

コ(子)ノ‐アミ(母)の約。子持ちの意から前妻の意に転じた(日本古語大辞典=松岡静雄)、

というのも面白いが、「こなみ」だけが他と対比できないのは納得できない。

夫が、

之太乎(したを 下夫)⇔宇波乎(ウハヲ 上夫)、

ならば、妻も、

こなみ⇔うはなり、

は、セットでなくてはおかしい。やはり、

着馴妻(こなれめ)の轉、

と、着物に準えたというのが、おしゃれではないだろうか。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:56| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする