2020年12月19日

船場煮


「船場煮」というものがある。

塩鯖と短冊形に切った大根を昆布だしで煮た汁もの、

とある(広辞苑)。

塩または粕・味噌煮の肴と大切りの大根・人参などの野菜を取り合わせた鍋料理、

ともある(岩波古語辞典)。

船場汁、
船場鍋、
せんば、

ともいう(仝上・たべもの語源辞典)。

さばの船場汁.jpg

(さばの船場汁 https://www.nissui.co.jp/recipe/00962.htmlより)

薄味で汁たっぷりに煮たもの、

だが、今日多くつくられるのは、

大根と塩鯖の汁、

で、江戸時代は、

せんば、
せんばいり、
せんばに、

と呼ばれ、

千羽、
千羽煎、
前葉煮、

と当てられていた(たべもの語源辞典)。「千羽」は、

煎り鳥の手軽な料理法、

で、

わけなく千羽でもできる、

ということで名づけられた(仝上)、とある。江戸時代の川柳に、

からざけをせんば煮にする照手姫(宝暦十三年(1763)「川柳評万句会」)、

というのがある(江戸語大辞典)。

どうも初めは鳥料理だったらしい。

鳥肉にだしにたまりを少しさしてつくった、

とある(仝上)。

せんばいり、

は、煎り鳥に青物を加えて、

前葉、

の名がついた(仝上)。

煎り鳥と同じ料理法、

ということを示している(仝上)。鳥からはじまって、タイ、サケ、マスなとげの魚を用いるようになる、とある(仝上)。室町後期の《証如上人日記》《津田宗及自会記》には、

雁およびヒラタケ(平茸)のせんばいり、

が記録されているが、これはそれらの材料を煎りつけるように煮て、塩、ことに焼塩で調味したものだった(世界大百科事典)、とあり、《料理綱目調味抄》(1730)にも、

船場煮の名が見え、

船場煮、熬(いり)とも、

とあり、

大略うしほ煮のごとく多くは塩魚に大根、ふき等を加ふ、

とある(仝上)。

船場、

という字が当てられたのは、船場では、

使用人の待遇が非常に悪かった、おかずにしても、一日一度の菜葉に、あと二度は、一斗塩漬けという塩辛いたくあんと、ダイコンの葉をきざんで塩漬けにしたものがあればいい方で、たまに魚がでても、イワシ、サバ、サケなど塩干しくらいであった。これらの粗末な材料を利用してつくったのが船場煮であった、

とあり(仝上)、一名、

丁稚汁、

ともいい、

薄い塩味に、鯖の脂が適度に加わり、何杯でもお代わりが出来るし、それで相当に腹が張るので、しぜん、飯のほうはそれほど食べられない。旨い上に、至極経済的でもある、

ともある(大阪歳時記)が、船場の商家の食生活は、

「朝粥や昼一菜に夕茶漬け」といわれる、つましいものでした。日常は野菜本位のお惣菜で、月に2回だけ魚がつきました。その塩鯖や塩鮭を食べた後の頭やアラを出汁にして短冊にした大根を煮たのが船場汁で、いわば廃物利用の食物です。塩鯖一本で十人前のおかずになる、などとして魚を全部使っている例もありますが、これも頭から中骨まで使い切る無駄のない料理です、

とあり(日本国語大辞典)、使用人ではなく、

つましかった大阪船場の商人が食べた、

とされるらしいが、何れが正しいかは別として、これが、

船場煮の由来、

とする説がある。しかし、この説は、付会らしい(日本語源大辞典)。大言海は、

洗馬煮、

と当て、

木曽山中の洗馬駅に起こる、

とあり、

鰹・鮭の類の鹽漬魚を湯にて煠(ゆ)でこぼし、鹽気を去り、鰹節出汁煮にて煮たるもの、

とある。東海道中膝栗毛には、

鮪のせんば煮も、おざりまあす、

とある(大言海)。他に、

前葉煮の意(上方語源辞典=前田勇)、

という説も、

塩鯖の頭や中骨と短冊に切った大根を入れて作った潮汁(うしおじる)」のこと、

という説もある(日本国語大辞典)。どうも、入っている具も、

塩漬魚、
と、
鳥肉、

では差がありすぎる。ひょっとすると、鳥系の、

千羽、せんばいり、前葉、

と、塩漬魚系の、

船場煮、
洗馬煮、

とは、由来を異にするのかもしれない。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:50| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする